折れそうな心
退院への道すじが見えてきた──そう思えた頃の術後25日目。
侑也はまた高熱に襲われた。肺炎だった。
栄養剤の量を、時間50mlに増やした直後のことだった。
「この量では多かったのか?」
「でも、栄養面を考えると減らすのは…」
先生たちとの議論が続く。
結果、流すスピードを遅くし、接続時間を長めにすることで落ち着いた。
家に帰れると思うと、また熱が出る。
退院が遠のくたびに、僕たち夫婦の心は少しずつすり減っていった。
入院生活が二ヶ月目に入ろうかという頃、僕の母が見舞いに来てくれた。
「日中だけでも、私が代わって見ておくよ。二人でリフレッシュしておいで」
そう言ってくれたのだ。
久しぶりに妻を連れて我が家へ。
買い物をしたり、少しぶらぶらと歩いたり。
外の空気を吸うだけで、こんなにも心が軽くなるものかと感じた。
妻は最近、体調が優れないようだった。
心身ともに限界が近いことは分かっていた。
少しでも気が紛れれば――そんな思いで過ごした帰り道。
夕方、車内で妻がぽつりと言った。
「生理が来ないの。……赤ちゃん、できてたらどうしよう」
もちろん、そんなはずはない。
それでも、妻は真剣な顔で続けた。
「こんなこと、今までなかったの。きっと、赤ちゃんいるんだよ。どうしよう……」
不安ばかりを繰り返す妻に、僕はただ言葉を探した。
「大丈夫。心配ないよ。侑也のことだって、きっとうまくいく」
それ以上の言葉は出てこなかった。
侑也のことを四六時中、見守り続けてきた妻。
僕にはまだ仕事があり、外の世界とのつながりがあった。
だが妻は、ずっと閉ざされた世界で耐えていたのだ。
その現実を思い知らされ、僕は自分が何もできていないことに気づく。
胸の奥に溜まっていた叫びが、喉まで込み上げてくる。
――誰にも気兼ねなく、全力で叫びたかった。
希望を探し続けてきた心が、折れそうだった。




