選ぶべきは 〜僕たちの解答〜
「手術の話に移りますね。」
先生の言葉が、混沌とした頭の奥に響く。
そうだ。悩んでいる時間はもうない。侑也の“今”を守らなければ。
「侑也くんの状態を考えると、胃瘻の造設は妥当だと思います。そして噴門形成術は受けないということで、よろしいですね?」
僕たちは何度も話し合い、結論を出していた。
どうしても――侑也から「食べる楽しみ」を奪う決断ができなかったのだ。
成長すれば改善されるかもしれない。
その未来の可能性まで閉ざすことだけは、したくなかった。
これが本当に正解だったのか。
その答えは、年を経た今でも見つからない。
けれど、あの時の僕たちはただ、侑也の未来を信じたかった。
「逆流や肺炎のリスクは残りますが、必要と判断されれば後から手術を追加できます。それまでは胃瘻からの注入で様子を見ましょう。うまくいけば、それが一番ですしね。」
先生は無理に勧めることもなく、淡々と説明を続けた。
「それともう一点。検査の結果、腸の収まり方がかなり複雑で、腸閉塞や腸捻転の危険が高いです。盲腸も通常とは異なる位置にあるため、将来的に炎症を起こしても気づきにくい。胃瘻造設の際に腸を整え、盲腸を取る手術を同時に行いたいのですが、よろしいですか?」
初めて聞く話だった。
だが、将来のリスクを思えば整えてもらった方がいい。僕たちはうなずいた。
「では改めて小児外科の先生から詳しい説明があります。本日の説明は以上です。」
――部屋に戻ると、家族三人で今日の出来事を整理した。
手元のプリントを穴が開くほど見つめる。
そこに並ぶ症状の数々が、まるで侑也のカルテを写したように思えた。
何万人に一人という確率で選ばれた病――コルネリア・デ・ランゲ症候群。
「こんな薄い確率を引き当てるなんて。どうせなら、良いことの方で選ばれたかったな。」
そう言って笑ってみせたが、胸の奥は重かった。
侑也は“僕知らなーい”とでも言うように、いつものようにコロコロ転がっている。
頭をコンコンと叩く仕草を見て、ふと資料の「自傷行為」という文字が頭をよぎる。
指の研究も、ハイハイできないことも、すべてが病気の影響に見えてくる。
急に「病気です」と言われて受け入れられるわけがない。
でも、現実は静かに、確実に目の前にあった。
「対処療法しかない」
その言葉が頭をよぎる。
ならば、目の前の問題を一つずつ解決していこう。
それが積み重なった先に侑也の幸せがあるのなら。
――この日、僕たちはようやく「本当に向き合うべき敵」の姿を知ったのだ。




