コルネリア・デ・ランゲ症候群
「コルネリア・デ・ランゲ症候群?」
まずはプリントに目を通した。
主な症状……単一臍帯動脈、胎児期から見られる発育不全、哺乳困難、胃食道逆流、停留精巣、尿道下裂、感音性難聴──
なんだこれ……?
侑也のことが、そのまま書いてある。
思わず先生を見返すと、先生たちはどこか自信なさげな表情をしていた。
「この病気は、容姿にも特徴が現れるんです。
太く繋がった眉、上を向いた鼻、四肢や指の変形・欠損、多毛症などが主なものです。
ただ、侑也君にはそれが見られないんですよね。そこが悩ましいところで……」
確かに、鼻は少し上を向いているが、「そう言われれば」という程度だ。
四肢も五体満足。
だが──心当たりが、二つあった。
「先生。侑也の眉は繋がっていますし、産毛が多くて、おでこが隠れるほどでした」
先生が驚いたようにスマホに写した侑也の写真を覗き込む。
「僕と一緒にお風呂に入ったとき、気になれば整えてやってたんです」
なるほど……と、先生の顔に納得の色が広がった。
僕の“余計な行動”が、先生たちの診断を迷わせていたのだ。
そして正式に――コルネリア・デ・ランゲ症候群だと診断された。
「この病気は染色体異常によるもので、根本的な治療法はありません。
現れる症状に一つずつ対処していく“対処療法”しかないんです」
羊水検査の時、医師が言っていた言葉が蘇る。
「見た目には異常はないが、内部の詳しいところまでは見れない」
あの言葉が、今ようやく腑に落ちた。
染色体異常を“治す”ことなどできない。
もしできたとして、それは本当に侑也なのか?
そんな問いが、ふと頭をよぎった。
「今後、成長の過程で知的障害や発達障害、成長障害が見られると思います。
周りの子にはできて、侑也君にできないことも増えていくでしょう。
それを“彼の個性”として受け止めてください」
「でも先生、努力すればできるようになることもあるんじゃないですか?」
僕の問いに、先生の答えは静かで、しかし厳しかった。
「お父さん。持っていない力を無理に付けさせようとすると、侑也君に負担をかけるだけです。
できないと分かったときの落胆も大きいでしょう。
できることを見つけて、そこを伸ばしてあげてください」
──諦めろ。
そう言われた気がした。
でも侑也は、今までも努力してできることを増やしてきた。
これからだって、きっと。
そう信じたかった。
検診の日のことを思い出す。
周りの子に比べて明らかに遅れていた侑也。
それが病気によるものだと考えると、妙に納得できてしまう。
無理にやらせるのは、侑也を苦しめるだけなのかもしれない。
「いきなり言われて混乱するのも当然です。
これから、侑也君の成長に合わせて療育を進めていきましょう」
納得できない?
いや、むしろ今までの全てが繋がり、納得できてしまった。
──そっか、侑ちゃん。病気だったんだな。
ごめんな、今まで無理させたこと、いっぱいあったよな。
そう心の中で話しかけると、写真の侑也はニコニコと笑って見返してくる。
やっぱり、この笑顔が原動力だ。
前に進もうと思えた。
「それでは、手術の話に移りましょう。」




