選ぶべきは 〜前編〜
テレビ室で管を入れてから2日後、再びレントゲンで管の位置を確認した。
上手く十二指腸まで入っているようだ。先生も「浅いけど、まぁ良いでしょう」と言ってくださった。
この日から侑也の主食は、エレンタールという栄養剤になった。
検査の際に造影剤を誤嚥してしまい、軽い肺炎を起こした侑也だったが、少しずつ元気を取り戻してきた。
今日もご機嫌に、鈴のブドウをブンブン振り回し、看護師さんとおしゃべりしている。
その姿にようやく胸をなでおろす。
ポンプを使ってエレンタールの注入が始まった。
1時間に10ml──見ていても流れているのか分からないほどのゆっくりした速度だ。
たまに鳴るポンプの機械音が、「止まっていないよ」と教えてくれる。
ちゃんと流れているのか、また吐くんじゃないのか──そんな不安を抱えながら見守っていたが、吐くことはなかった。
わずかながら、手応えを感じた瞬間だった。
しかし2日後、脳波とレントゲンの検査で異変が見つかる。
管の先が胃の中まで戻ってしまっていたのだ。
後日あらためて入れ直すことになったが、その晩、侑也は吐き戻しと発熱を起こした。
やはり胃の中ではだめなのだ。
どんなにゆっくり与えても、逆流は抑えられない。
2日後、また吐いてしまい、もう熱が引くのを待っていられないと判断され、再び管を入れ直すことになった。
今度はかなり深い位置まで入ったと聞き、妻と二人で胸をなでおろした。
「このまま十二指腸まで届いていれば、吐かずにいけるかもしれない」
そう思った矢先、先生の口から新たな提案があった。
「先が十二指腸まで入っていれば問題は少ないですが、抜ける危険が非常に高いです。見た目では位置も分かりにくい。今後のことを考えると、胃瘻の造設と噴門形成術を検討してみてください」
胃瘻?噴門形成術?──頭がついていかない。
先生の説明は続く。
「胃瘻というのは、お腹に胃まで通じる穴を開け、そこに専用の管を入れて、そこから栄養を注入する方法です。鼻から管を入れずに済むので、侑也くんの負担は減ります。
噴門形成術というのは、食道と胃をつなぐ部分を縛って逆流を防止する手術です。ただし、侑也くんの場合は逆流が相当強い。完全に止めてしまうと、今度は“吐きたいのに吐けない”状態になってしまいます。苦しい時間が長く続くこともありますし、口から食べても胃に届かない可能性があります」
──どうされますか?
先生の問いに、僕たちはすぐには答えられなかった。
このままでは、いつまた管が抜けて肺炎を起こすか分からない。
でも、侑也から“口から食べる”という楽しみを奪ってしまうのか?
まだ一歳。これからいろんな味を知っていくはずだったのに。
悩める時間はそう長くない。
けれど、簡単に出せる答えではなかった。
「検討させてください」とだけ伝え、その場を後にした。




