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小さな足跡の記録  作者: こう
再入院 明らかになる病

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震える一夜

9月11日。

耳の神様へお参りに行った、あの日から一週間後のことだった。


この日は僕が仕事で外出しており、家には侑也と妻のふたりきり。

天気が良く、朝の10時頃に近くへ散歩に出かけたらしい。

しかし帰ってからの侑也の様子がどうもおかしい。

いつものように笑顔を見せず、寝たり起きたりを繰り返している。


侑也はこれまで風邪ひとつひかなかった。

だからこそ、妻はどうしていいのか分からず、様子を見ていたという。


夕方、ミルクをあげようと抱き上げた瞬間――体が熱い。

慌てて体温を測ると、39.4度。


すぐに体を冷やしながら僕の帰りを待っていたが、

もう一度測ると今度は37度。

「こもり熱かな」

そう判断してしまったらしい。

確かに、元気はないが寝ているだけにも見えたという。


ところがミルクを注入し始めた途端、鼻や口から溢れるように出てきた。

「いつもなら終わり頃に吐くのに……」

妻は首をかしげながら、少なめにして様子を見ようとした。


だがミルクの終わり頃、侑也の体に異変が起きた。

白目をむき、全身がガクガクと痙攣し始めたのだ。

妻は必死に呼びかけるが、返事はない。

数分後、ようやく落ち着き黒目が戻ったが、妻は混乱し、どうしていいか分からず立ち尽くした。


そんな日に限って、僕の帰りは遅かった。


夜、20時過ぎ。

家に帰ると妻が泣きそうな顔で侑也の様子を報告してくれた。

「すぐに病院へ行こう」

そう判断できたのは良かった。

だが、ここで僕は大きな間違いを犯した。


救急車を呼ばず、自分の車で向かったのだ。


当時の僕の頭には“119番”という選択肢が浮かばなかった。

救急車は、ニュースの中の存在。

まさか自分が呼ぶ日が来るなんて、思ってもいなかった。


妻は助手席で病院へ電話をかける。

受話器の向こうから、驚いたような大きな声が聞こえた。

「えっ!? 連れて来られてるんですか!?」

それほどまでに、侑也の症状は“救急案件”だったのだろう。


車内でも侑也は何度も吐き戻し、痙攣を繰り返した。

「もうすぐ着くからな。頑張れ!」

それしか言えなかった。

無力さが胸を締めつけた。


病院に着くと、すぐに処置室へ運ばれた。

到着時の体温は40度を超えていたという。

薬で痙攣と熱を抑えながら、原因の特定が始まった。


「頼む侑ちゃん、無事でいてくれ――」

待合室で何度祈った事だろう。何度願った事だろう…

何度も、何度でも。

妻も真っ青な顔で、手を合わせていた。


どのくらいの時間が経ったのか分からない。

ようやく先生が現れ、静かに告げた。


「誤嚥性肺炎による熱性痙攣です。

 レントゲンを見ると、肺が真っ白です。慢性肺炎の状態ですね。

 今は薬で落ち着いてきていますが、集中治療室で様子を見ます」


そして最後に、はっきりと注意を受けた。


「今後は、必ず救急車を呼んでください。

 一分でも早く治療を始めるために」


あの夜のことは今も、忘れられない。

侑也の小さな体が震えるたび、僕の心も同じように震えていた。

ただ、祈ることしかできなかった。

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