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小さな足跡の記録  作者: こう
日々の暮らしの中で
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耳の神様へ

9月3日。

この日は祖父母に誘われ、「耳の神」を祀っているという有名な神社へ出かけることにした。

侑也に難聴があることを知っていた祖父母が、わざわざ探してくれた場所だった。


目的地までは片道2〜3時間。少し長い道のりだったが、家族旅行にはちょうどいい距離だ。道中の観光名所に立ち寄りながら、のんびりとした小旅行を楽しむことにした。


途中、瀬戸内の海を一望できる高台で休憩をとる。穏やかな海と島々が広がるその景色に、侑也は少し驚いたのか、ぎゅっと僕に抱きついてきた。

――いつか、いろんな景色を見せてやりたい。いろんな音を聞かせてやりたい。

そう思っていたけれど、まだ少し早かったのかもしれない。


神社に着くと、広い境内には参拝の順路が案内されており、その通りに進んでいく。途中、観光客とすれ違うたびに侑也は注目の的になった。


「わあ〜、可愛い! 何ヶ月ですか?」

「もう1歳なんですよ。ちょっと小さく見えますけどね」

妻が笑顔で答えると、相手の女性は驚いたように目を丸くしていた。

侑也を初めて見る人は、きっとみんなそう感じるのだろう。笑顔と戸惑いの混じった表情を浮かべ、去っていくその人を見送りながら、僕は小さく笑った。


境内には外国から来た旅行者の姿もあり、自転車で訪れていた人が侑也を見て手を振ってくれた。侑也も負けじとニコニコと笑顔を返す。

「本当に動じないやつだな」

そう思わず口にすると、妻も同じように笑っていた。


やがて、参拝の場所へ。そこにはサザエの殻と絵馬がずらりと奉納されていた。サザエの渦巻く形が、耳の内部の構造に似ていることから、“耳の神様”として信仰されているのだという。

僕たちは持参していなかったが、手を合わせて静かに祈った。

「侑也の耳が、音で満たされますように」


帰り道、サービスエリアで休憩したとき、売店で見つけたブドウの形をした鈴のストラップに侑也の視線が釘付けになった。

「これが欲しいの?」

小さな手が伸びてきたので、それを買って持たせてやると、ブンブンと振って音を鳴らしている。鈴の涼やかな音に笑顔がこぼれる侑也。音の鳴るものが、やっぱり好きなんだ。


その後、サービスエリアでミルクを飲ませた。いつものようにイリゲーターを吊るして注入していると、途中で吐いてしまった。

最後は少し不機嫌になってしまったけれど、初めての長距離の外出で、良い思い出がまた一つ増えた。

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