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小さな足跡の記録  作者: こう
日々の暮らしの中で

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光と音の中で

補聴器の訓練を始めた侑也。世界のいろんな音を見つけて回るように、今日もズリズリと蹴って動き、家の中を大冒険だ。寝返りの回数もどんどん増えていく。が、戻れない。救助を求める姿が愛らしい。


今日は僕の実家へ遊びに行く。祖父母から侑也へ服を買ってくれるというのだ。みんなでお店に行き、妻と祖母は「あれが良い」「これが似合う」などと言いながら、侑也に次から次へと服を当てていく。

「もうちょっと落ち着いて選んでよ」

そう言いたげに、少し不機嫌になる侑也。その間に僕と祖父はおもちゃコーナーへ。いろいろ見て回る中で目にとまったのは「赤ちゃん新聞」。触るとクシャクシャと音がして、侑也の手にもぴったりの大きさだ。

「音も楽しめるし、これが良さそうだな」

購入を決めて侑也に合流すると、まだ着せ替え人形状態。すでにカゴには3、4着入っている。僕たちはそっとその底におもちゃを忍ばせた。


店内を見て回っていると、手持ち花火のセットが目に入る。そういえば侑也はまだ“花火”を見たことがない。音も光も楽しめる、いい刺激になりそうだ。これもカゴの底にそっと忍ばせた。気づかれないほど集中して選ぶ妻と祖母の姿に、少し笑ってしまう。


実家に帰り着くと、夕ご飯までは少し時間があった。侑也を連れて家の中を探検して回る。トイレ、お風呂、納戸、僕の使っていた部屋……ひととおり案内を終えてリビングに戻ると、祖父が使うマッサージチェアがあった。成人男性もすっぽり包むほどの大きな座面に、侑也を座らせてみる。

赤いシートにぽつんと座る侑也。後ろの赤が映えて、ちょっと神々しく見えたので思わず拝んでしまった。


日も暮れ、あたりが暗く静まり返った頃、買ってきた花火の出番が訪れる。色とりどりの光があふれ、光のシャワーが音をたてて庭を照らし出す。幻想的な光景に侑也は目を丸くし、笑顔で手を伸ばした。掴める距離ではないのに、何度も前のめりに手を伸ばして光を追いかける。その姿を見て、「やってよかったな」と心から思った。


しばらく楽しんでいた時、煙でむせたのか侑也が咳き込み、管が口の中まで出てきてしまった。この頃には入れ替えにも慣れていたので、慌てず家の中へ入る。

ただ、僕たちにとっては日常でも、祖父母には心臓が止まりそうな光景だ。

「大丈夫か?病院に行った方がいいんじゃないか?」

不安げに立ち尽くす二人に、僕たちは

「大丈夫。いつものこと」

と声をかけ、泣いている侑也をあやしながら静かに管を戻す。手慣れた動作に祖父母は息を飲み、そして黙って見守ってくれた。


侑也には管がある。入れ替えも差し直しも、僕たちにとってはもう“いつものこと”。

けれどその“いつも”が、他の人にとっては別世界の出来事なのだと、あらためて気づかされた夜だった。

花火の残り香の中で、僕は静かに侑也を抱きしめた。

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