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小さな足跡の記録  作者: こう
日々の暮らしの中で

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侑也のイヤーモールド

初めて難聴児の支援施設に来たとき、月に一度の検査で通う契約をさせてもらった。検査以外でも親子で遊んだり、触れ合いの時間を提供してくれているようだが、平日のため僕が参加できる機会は少ない。ここに来るのは僕にとって二回目、侑也にとっては三回目だ。


前回と同じように、少し離れた駐車場から歩いていると、園庭から子どもたちの元気な声が聞こえてくる。

「今日もみんな元気いいな」

そんなことを妻に言いながら園庭を抜け、入口へ向かった。


今回も同じ個室へ案内される。

「侑也くん、久しぶり〜」

担当の先生が明るく声をかけてくれた。


前回、補聴器の使用を勧められたので、今日はそのために必要な“イヤーモールド”を作るのが主な目的だ。

補聴器本体はお試しで中古を借りる予定だが、耳に入る部分だけは一人ひとりの耳の形に合わせて作る必要がある。それがイヤーモールドというものだ。


まずは、前回も行った音への反応を確認する検査から始まった。

耳元で音を鳴らすと、音の正体を探すように右へ左へと体ごとゴロゴロ転がっていく。


……かわいい。

思わずイタズラ心が芽生え、耳元で鳴らした鈴をパッと隠してみた。

「あれ?こっちで音がしたのにな?」

不思議そうな顔でキョロキョロする侑也。

「ここでした〜」

隠した鈴を見せると、パァっと表情が明るくなった。鈴を見つけて、納得したようだ。


先生が言う。

「どうやら左右で音の反応に違いがありますね。聞こえ方にも差があるのかもしれません」

確かに僕が見ていても、わずかに右耳の方が反応が良かった気がした。


「イヤーモールドができたら、補聴器も侑也くんの聞こえに合わせて左右で調整しましょう」

そう言われ、いよいよ型取りに入る。糸を垂らし、柔らかい粘土のような素材を耳に詰めていく。しばらくして固まると、糸を引いて取り出すらしい。


その間、侑也は驚くほど大人しくしていた。

指の研究に夢中だっただけかもしれないが……。


型取りが終わると、業者に出して作ってもらうため、しばらく時間がかかると聞かされた。

今日はここまでだ。


「補聴器つけたら、きっと侑也びっくりするんだろうな。“世界ってこんなにうるさかったのか!”ってさ」

そんな話を妻としながら帰った。


——静かな世界で過ごしてきた侑也に、早く音の世界を感じさせてやりたい。

そう願いながら、車の窓越しに揺れる春の光を見つめていた。

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