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小さな足跡の記録  作者: こう
日々の暮らしの中で

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この子を守りたい

侑也の成長を喜んで見守ることが増えた頃、定期の受診で先生に「吐く」ことが多いことを改めて相談する。


「やっぱり吐くんですか…。そうはいってもまだまだ小さいですしね。ミルクの量は減らしたくないし、体の成長とともに落ち着くこともあります。いつも通り整腸剤と漢方を出しておきます。浣腸もして、しっかり出してあげてください」


確かに侑也の体はまだまだ小さい。受診時に測った体重も、まだ5,000gに届いていなかった。

飲めば吐くし、減らせば成長をさらに遅らせることになりかねない。

ジレンマの中にいるのは、先生も同じようだった。


「ところで、侑也君の停留精巣と尿道下裂の件なんですが」

先生から急に切り出された。頭の中を切り替えるのもやっとだ。



「尿道下裂に関しては、おしっこもまっすぐ飛ぶようですし、もっと大きくなってみないとわからない部分もあります。ただ停留精巣に関しては、精巣が体内にとどまり続けることで温められることが問題になる可能性があります」


「というと、どういうことですか?」

混乱する頭の中で、なんとか理解しようと先生に問いかける。


「精巣というのは、冷却を目的として体外に出ている内臓なんです。これが体内で温め続けられますと、精巣癌のリスクが高くなります」


いきなり“癌”という言葉が先生の口から飛び出し、僕たち夫婦はギョッとした。

ガン? この子が? こんなに小さいのに?


「もちろん今日明日すぐになるというわけではありません。成長過程で体外に出てくる場合も多いです。ですが、侑也君の場合かなり深いところにあるのがエコーで見てわかります。これだと自然に出てくるのを期待するのは難しいでしょう」


急に大きな岩が体にのしかかってくるような感覚だった。


「今すぐとは言いません。一歳を超える頃まで様子を見て、変化がないようなら手術して出してあげたほうがいいと思います」


先生の言葉が重く、深く心の中に入り込んでくる。

こんな小さな体にメスを入れるなんて。体は大丈夫か? 麻酔は? また以前のようになるのでは?

でも、やらなければ。ガン? 嘘だろ?

混乱する頭の中で、ぐるぐると同じことばかりを考えていた。妻も同様に、頭を抱えているようだ。


「どちらにしても、侑也君の成長を待ちましょう。タイミングを見て、またお話します」


診察後も、僕たち夫婦の顔は晴れない。

暗闇に突き落とされたような感覚の中、ベビーカーに乗せている侑也の寝顔が目に入った。


──この子を守りたい。


侑也の笑顔を灯火に、そんな気持ちを原動力として僕たちは歩き出した。

一歳になるまで、まだ時間はある。

もしかしたらという淡い希望を抱いて、この日は帰路についた。

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