抱っこ紐で初めてのお散歩
まだまだ冬の寒さが厳しいはずの2月初旬。
けれどこの日は日差しがやわらかく、日向にいればポカポカと温かい小春日和だった。
最近は病院や実家への行き来で外に出ることも増えてきたので、思い切って抱っこ紐を用意してみた。
「天気もいいし、今日は侑也とお散歩に行ってみようか」
僕の提案に妻も嬉しそうに頷く。
これまでの外出は、いつも目的地へ急ぐだけの“移動”だった。
今日は初めて、“お出かけ”として、ゆっくりと家の周りを歩いてみようと思う。
抱っこ紐に侑也をしっかり固定して、いざ外へ。
冬とは思えないほど柔らかい陽射しが降り注ぎ、侑也は眩しかったのか、妻の胸に顔を埋めてしまった。
歩いていると、道端の草が目に留まる。
「ほら侑ちゃん。これなんだろうな?」
抜いた草をそっと近づけてみると、侑也は興味深そうにじっと見つめていた。
大通りの方からは車の音が響いてくる。
「ほら侑ちゃん。大きなブーブーがいっぱい通ってるよ。かっこいいな」
車に乗るのは好きなのに、見るのはそうでもないらしい。視線はあまりそちらを向かなかった。
しばらく歩いていると、心地よい揺れに包まれて侑也はウトウトし始めた。
家の周りをひと回りしただけの短い散歩だったけれど——
侑也が何に興味を持ち、何を好きになるかはまだわからない。
けれど、これからもっとたくさんの世界を見せてやりたい。
広い世界を感じさせてやりたい。
そんなことを思いながら、僕たちは静かな午後の陽射しの中をゆっくりと家へ帰った。




