初めての支援施設
2月7日。侑也の聴力の件で紹介された、難聴児の支援施設へ初めて行くことになった。
病院よりもさらに遠い場所で、侑也にとっては一番の遠出だ。
電話で聞いていた駐車場は施設から少し離れており、荷物を持って歩くには少し距離がある。
僕が荷物を持ち、侑也はベビーカーに乗せて歩き始めた。
大きな通りを足早に渡りきると、目的の建物が見えてきた。
「難聴児ばかり集まっている」と聞いていたので、どんな場所なのだろうと想像していたが、園庭の方から元気な子どもたちの笑い声が聞こえてきた。
「なんだ。よそと変わらない、普通の保育園みたいだな」
思わず口にすると、妻が笑って言った。
「どんなところだと思ってたのよ」
賑やかな園庭を横切り、入り口に着くと、
「いらっしゃい。お待ちしてましたよ。こちらへどうぞ」
と声をかけられ、案内された個室に入る。
初めての場所にも動じず、侑也は大好きな“指の研究”を始めていた。
しばらくして、担当の先生が現れる。
「はじめまして、侑也くん。こんにちは」
モジモジと手遊びしながらチラッと見上げ、にこっと笑う侑也。
先生の第一印象も悪くない。
侑也としばらく遊んだあと、先生が言った。
「病院からも検査結果を受け取っています。どうも低い音の方が聞こえにくいみたいですね。では実際に、どのくらい聞こえているのか試してみましょうか」
太鼓や鈴、トライアングルなど、さまざまな楽器が耳元で鳴らされた。
侑也は「なんか音がした」という顔をしたあと、
「こっちかな?あっちかな?」と音のする方を探すように首を動かした。
検査が終わると、先生は静かに告げた。
「確かに、高い音の方が低い音よりも反応がいいですね。今後の成長を考えると、補聴器の使用も視野に入れておいたほうがいいかもしれません。これからも検査を続けていきましょう」
実際に目の前で音への反応を見ると、納得せざるを得なかった。
鈴やトライアングルのような高い音にはすぐ反応するのに、太鼓のような低い音では気づくまでに時間がかかっていたのだ。
帰り道、少しショックを受けながらも、侑也のニコニコ笑顔を見ていると不思議と力が湧いてくる。
難聴も、侑也の個性のひとつ。
昔ならいざ知らず、今は補聴器だって高性能だ。
大丈夫。問題なんてない。
そう自分に言い聞かせながら、またひとつ侑也のことを知れた喜びを噛みしめた。




