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小さな足跡の記録  作者: こう
日々の暮らしの中で

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23/40

自分で飲んだ一口

吸うという行為が苦手な侑也に対して、何かしら出来ないものかと考え悩んでいた。

注入してあげても確かにお腹いっぱいにはなるだろう。でも、やっぱりお口から食べさせてあげたい。舌で味を知る楽しみも感じてもらいたい。

そんな思いから、離乳食用のスプーンを使ってお口に入れてあげるようにしてみた。


シリンジで入れてあげてた時もそうだったが、お口に入ると“ごっくん”は上手にできているように見える。

ちょっとずつ、ちょっとずつ。無理して吐いたら元も子もない。そう言い聞かせながら、慎重にお口へ運んだ。


最初は、初めて見るスプーンに嫌悪感を示していた侑也も、何度も回数を重ねるうちに、スプーンを近づけると口を開くようになり、ついには自分から口を近づけて“吸いこむ”仕草まで見せるようになった。

その瞬間、僕と妻は顔を見合わせた。

「……今、吸ったよね?」

「うん。ちゃんと飲めた」

たった一口。でも、それは確かに“自分で飲んだ”一口だった。胸の奥がじんわりと温かくなる。


「スプーンで飲むのは大丈夫そう」

「うん。本人のやる気次第なところはあるけど、ちゃんと飲めてるようだし、これでうまく行くといいな」

僕たちは代わる代わる抱っこをしながら、侑也のお口にミルクを運んだ。


抱っこをしながらだと、寝たまま注入されるのに対し、少し頭の上がる姿勢になる。その姿勢も良かったのか、侑也は嬉しそうに小さく声を漏らしながら飲んでいた。


侑也が産まれて半年。この前、相談の時に先生に

「ん〜?首が完全に座ったと言えるまでもうちょっとかな?」

と言われた。母子手帳に書いてある成長段階よりも少し遅い。体重・身長などで見る成長曲線も平均より遥かに下だ。実際、病院で測ってもらった体重は4500gほど。


でも――侑也は侑也。人と比べることはない。

そう言い聞かせながら、腕の中でスプーンを見つめ、ゆっくりとミルクを飲み込む侑也を、僕は何度も愛おしく見つめた。

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