自分で飲んだ一口
吸うという行為が苦手な侑也に対して、何かしら出来ないものかと考え悩んでいた。
注入してあげても確かにお腹いっぱいにはなるだろう。でも、やっぱりお口から食べさせてあげたい。舌で味を知る楽しみも感じてもらいたい。
そんな思いから、離乳食用のスプーンを使ってお口に入れてあげるようにしてみた。
シリンジで入れてあげてた時もそうだったが、お口に入ると“ごっくん”は上手にできているように見える。
ちょっとずつ、ちょっとずつ。無理して吐いたら元も子もない。そう言い聞かせながら、慎重にお口へ運んだ。
最初は、初めて見るスプーンに嫌悪感を示していた侑也も、何度も回数を重ねるうちに、スプーンを近づけると口を開くようになり、ついには自分から口を近づけて“吸いこむ”仕草まで見せるようになった。
その瞬間、僕と妻は顔を見合わせた。
「……今、吸ったよね?」
「うん。ちゃんと飲めた」
たった一口。でも、それは確かに“自分で飲んだ”一口だった。胸の奥がじんわりと温かくなる。
「スプーンで飲むのは大丈夫そう」
「うん。本人のやる気次第なところはあるけど、ちゃんと飲めてるようだし、これでうまく行くといいな」
僕たちは代わる代わる抱っこをしながら、侑也のお口にミルクを運んだ。
抱っこをしながらだと、寝たまま注入されるのに対し、少し頭の上がる姿勢になる。その姿勢も良かったのか、侑也は嬉しそうに小さく声を漏らしながら飲んでいた。
侑也が産まれて半年。この前、相談の時に先生に
「ん〜?首が完全に座ったと言えるまでもうちょっとかな?」
と言われた。母子手帳に書いてある成長段階よりも少し遅い。体重・身長などで見る成長曲線も平均より遥かに下だ。実際、病院で測ってもらった体重は4500gほど。
でも――侑也は侑也。人と比べることはない。
そう言い聞かせながら、腕の中でスプーンを見つめ、ゆっくりとミルクを飲み込む侑也を、僕は何度も愛おしく見つめた。




