小さな安心
「最近、また吐く量が増えたみたい」
そう心配する妻。確かに連日、鼻から口からドバっと吐くことが多い。
ミルクが多いのではないか? 他になにかあるのか?
そう考え出すと止まらないので、モヤモヤ悩むくらいなら受診して相談しよう――と、医療センターへ向かった。
管の件では「もう頼らん」と決めたが、それ以外は別だ。
むしろ受診することで改善できることがあるなら、積極的に通うことにしている。
プライドより侑也優先。
これも覚悟の一つだ。
病院では馴染みの看護師さんたちが侑也を見つけ、声をかけてくれる。
「侑也くん久しぶり〜!今日はどうしたの?」
「よく吐くから心配になって……」
そんな話を妻としている間も、侑也はニコニコしながら挨拶しているようだった。
診察室で主治医の先生に相談すると、聴診器でお腹の音を聞いている。
「どうもお腹の中に空気やガスが溜まって、腸への流れが悪くなって上へ帰ってきてるようですね。浣腸してみましょう。お家でも定期的にしてあげてください」
なるほど。下が詰まっているから上へ来てしまうのか。
妙に納得できた。
お腹を“の”の字に押すマッサージ方法や浣腸のやり方を学び、親子ともどもスッキリした顔で帰宅した。
夕方、夜のミルクの最中、やっぱり吐いてしまったが、吐く量は減っていた。
「浣腸効果かな?」
少し安心したように夫婦で話していた。
「吐く」──その事実は変わっていないのに、
その夜はそれ以上、深く考えることはなかった。
けれど、あの小さな「安心」が、
後に長い夏を呼ぶことになるとは、まだ誰も知らなかった。




