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小さな足跡の記録  作者: こう
日々の暮らしの中で

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届いてたかな?僕の声

1月12日。退院時に予約していた耳鼻科へ、精密検査を受けに行く。

本当に聞こえていないのか。聞こえが悪いなら、どのくらい聞こえているのか。

不安と疑問に答えが出る日だと思うと、朝から緊張で胸がざわついた。


午前中の診察予定なので、朝からバタバタと準備をする。

よく吐く侑也のために着替えを多めに、オムツ、ミルク、水筒、イリゲーター……。

バッグはパンパンだ。

世の中のお母さんたちは毎日これを抱えて出かけているのかと思うと、頭が下がる。


車に乗ると、侑也はご機嫌。

走っているあいだは笑顔で声を出し、信号で止まると「動いてよ」とでも言いたげに不機嫌になる。

「今は赤信号なの。赤は動いちゃダメなんだよ」と妻が笑いながらあやしていた。

病院に着く頃には、すっかり寝入ってしまっていた。


診察を待つ間に目が覚めた侑也は、「ここはどこだろう?」とでも言いたげに周囲をキョロキョロ。

やがて恒例の「指の研究」が始まる。

一心に指を触ったり組んだりして、まるで世界の謎を解いているかのようだった。


泣くこともなく静かに待っていると、診察室へ呼ばれた。

先生が耳の中をのぞき、

「構造的な異常は見受けられませんね。では、脳波を測ってみましょう。寝ている状態で行う検査です。寝かしつけられますか?」

と言った瞬間、胸がドキリとした。

ついさっき目を覚ましたばかりで、目はぱっちり。これは手ごわい。


抱っこして揺れたり、背中をトントンしたりしてみるが、

「遊んでくれるの?」とでも言いたげに笑顔を返してくる。

先生から睡眠導入剤の提案もあったが、NICUで使ったときのことを話すと「やめておきましょう」となった。

――頑張って寝てもらうしかない。


揺れながら、腕もしんどくなってくる。交代しながらようやくあくびが出はじめ、目がトローン。

そっとベッドに寝かせると――「まだ寝ないの!」と大泣き。

背中スイッチをオフにする方法はないのだろうか。

それでも根気よくトントンを続け、ようやくウトウトしてきたところで検査開始。

だが、案の定途中で起きてしまった。

「途中で起きてしまったので正確な結果とは言えませんが、低い音のほうがかなり聞こえづらいようです。

お父さんの声なんかは、もしかしたら届きにくいかもしれませんね」


――え?僕の声、聞こえてなかったの?


頭が真っ白になった。

「このデータを持って、難聴児支援の〇〇園という施設に行ってみてください」と紹介状を渡され、

帰りの車内では、ただ侑也の寝顔を見つめながら運転した。


けれど家に着く頃、ひとつの結論にたどり着く。

「低い音が聞こえづらいってことは、高い声なら聞こえるかもしれない」

――その日から、僕の侑也に呼びかける声は、ひときわ高くなった。


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