小さな成長
侑也を迎えて、我が家の空気はがらりと変わった。
毎日、病院に通っていた頃は心配と不安ばかりだったが、今は同じ侑也の話でも、
「今日はミルクの時に、すっごい笑顔を見せてくれたよ」
とか
「腕にアンパンマンの人形つけてあげたんだ。これ、振ると音がなるんだよ。侑也も気に入ってくれたのか、ずっと鳴らしてる」
そんな明るくて柔らかい話題に変わっていった。
相変わらずミルクのあとには吐いてしまうけれど、ニコニコと笑う姿を見ていると、不思議とこちらのほうが元気をもらえる。
週に一度、鼻から入れているチューブを交換することになっていた。
けれど吐くたびにテープが濡れて緩み、お腹に力が入るのか、チューブの先が口の中まで上がってくることもある。
一週間どころか、連日入れ直すことも珍しくなかった。
昼間に抜けた時には、会社の昼休みに帰宅して入れ直した。
そのたびに侑也は大泣きで、慣れないうちはなかなか上手くいかない。
泣き叫ぶ我が子を前に、こちらも泣きながら挿入する夜もあった。
それでも、苦しいばかりではない。
侑也の小さな成長の一つひとつが、何にも代えがたい喜びを連れてきてくれる。
初めて自分の手でガラガラを持てた日は、今でも鮮明に覚えている。
すぐに手を離して、頭の上に「ゴン!」。
その時の「あれ?おかしいな?」という顔が、今もまぶたの裏に残っている。
祖父母たちもよく遊びに来てくれた。
代わる代わる抱っこしては、侑也に話しかけ、侑也も一生懸命何かを返していた。
何を言っていたのかは分からないけれど、確かに心が通っていた。
そうして日々を過ごすうちに、僕たちは「吐く」という出来事に、少しずつ慣れていってしまっていた。
それが日常になってしまうほどに――。
 




