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小さな足跡の記録  作者: こう
病院での日々

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14/40

眠りの向こう側

僕達夫婦は、看護師さん指導の下、経管栄養の準備から滴下、片付けの練習を始めた。

「侑ちゃん、ご飯の時間だよ」

声をかけながらポンプをセットしていく自分の姿が、どこかたどたどしく、滑稽にすら思えた。


妻は授乳室へと子どもを連れて行く母親を、どこか羨ましそうに目で追っていた。

仕方ない。

侑也は侑也だ。

そう言い聞かせながら、僕達は教わった手順を繰り返していった。


最も辛いのは、管の入れ替えの時だ。

抜くのは簡単だが、挿れるのはそうはいかない。

泣きじゃくる我が子の両手両足を抑えつつ、鼻の奥へとチューブを入れていく。

初めての時は、看護師さんの指導のもと、上手く入るまでに一時間を要した。

怒り疲れた侑也は、終わると同時にぐったりと眠ってしまっていた。


退院に向けての訓練が始まった頃、先生から検査の提案があった。

「全身の状態を詳しく調べたいので、MRIを使いたいのですが」

断る理由など無い。

「お願いします」


「MRIの検査中は動けないので、眠っている間に行いたいと思います」


そう説明を受け、僕達は納得してお願いした。



数日後、面会に行った際、先生から別室に呼ばれた。


「MRIの結果ですが、後頭部に小さな膿胞が見られました。ただ、今後に影響はないでしょう」

安堵しかけた瞬間、先生が言葉を継いだ。


「耳の検査もしましたが、こちらは精密検査が必要です。

……それと、MRI中に眠ってもらうため、睡眠導入剤を使用したのですが──

眠りが深くなりすぎて、呼吸が一時的に止まってしまいました。

すぐに対応し、問題なく回復していますので、ご安心ください」


……は?


呼吸停止?

それって──死にかけたってことじゃないのか?


「なんで、それが事後報告なんですか!」

気づけば声を荒げていた。

「すぐに知らせてくれるべきでしょ?回復したからって、はい終わりって話じゃないでしょう!」


先生は静かに、しかし淡々と答えた。

「無事に回復したので、経過としてご報告しました」


その一言に、怒りとも悔しさとも言えない感情が込み上げた。

お世話になっている病院で、強く言えば立場がなくなる。

それでも──息子の命が、たった一言で片付けられた気がした。


歯がゆかった。悔しかった。

けれど、ここで声を荒げても何も変わらない。

唯一の救いは、異常がないと言われたこと。

……耳以外は。


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