持ち替え
コタツで侑也と並んでご飯を食べるようになって、数日が経った。
侑也用のスプーンも、いつの間にか机に並ぶようになっている。
口から食べさせることは、慎重に判断するように言われている。
それでも、せめて雰囲気くらいは味わってほしくて、
スプーンだけは置いている。
今日も並んで食べていると、
侑也が自分で手を伸ばし、スプーンを右手で掴んだ。
「おお! そこまで手を伸ばせるのか!」
驚いて見ている僕たちを尻目に、
侑也はスプーンを振り回し、遊び始めた。
右手で持って、ブンブンと振り回す。
楽しそうな笑顔で声をあげている。
こちらも笑顔で見ていると、
不意に、侑也は両手でスプーンを掴んだ。
どうやら、右手から左手に持ち替えたいらしい。
左手に力を入れる侑也。
ところが、右手まで一緒に力が入ってしまい、
スプーンが動かない。
一生懸命に左手で引っ張るのだが、
どうやら、右手のほうが強いようだ。
「うーん。うーん」
侑也の声が、だんだん大きくなる。
スポン。
左手が、すっぽ抜けてしまった。
「あれ? おかしいな」
そんな不思議そうな顔で、
強く右手で握りしめたスプーンを眺めている。
何度か挑戦していたが、
結果はすべて、右手の勝ちだった。
途中で、
「こっちの手を離さなきゃ取れないよ?」
と、助け舟を出してみたが、
真剣に頑張る侑也があまりにも愛おしくて、
ついつい見入ってしまった。
結局、持ち替えは失敗に終わった。
それでも、その失敗さえ楽しかったのか、
侑也は笑顔で声をあげている。
スプーンの持ち替え。
次は、うまくいくといいな。
そんなことを思いながら、
自然と笑顔になれた、
ある日の晩ご飯の一幕だった。




