少しずつ進めましょう
ミルクをアレルギー対策用のものに変えてから、侑也の炎症反応の値はみるみると良くなっていった。
やはりミルクアレルギーだったのだろう。飲む量は増えてはいないが、暴れ方に元気が出てきたように見える。
得意の左手を天に突き出すポーズも、だいぶ様になってきた。
出産後2ヶ月も経った頃、NICUを卒業し、隣のGCUへと引っ越すことになった。
医師の説明では「後は飲めるようになれば退院できる」とのこと。
毎日通っていた妻もそれを聞き、早く一緒に暮らしたいと張り切りだした。
「お口から飲めるようになればお家に帰れるよ。頑張ろう?」
毎日のように侑也に語りかけ、授乳訓練を行っているらしい。
「今日は哺乳瓶からだけど30ccも飲めたんだよ」
毎晩の報告を聞くたび、退院も近いのかと胸が高鳴る。
侑也を迎える準備は万端だ。ベビーベッドもベビーカーも揃えたし、おもちゃも買った。
居間も隅々まで掃除をして、迎える日を待った。
けれど、日が経つにつれ雲行きが怪しくなってくる。
飲む量が増えないのだ。途中で諦めて寝てしまうことも多く、
結局ポンプでの注入になってしまう。
僕も行けるときには哺乳瓶での授乳に挑戦してみるが、
吸っている気配がない。舌で弄んだ挙げ句、滲み出たミルクを飲み込むような仕草。
「まだまだ小さいので体力が続かないのでしょう。焦っても負担になりますから、少しずつ進めましょう」
先生の言葉を聞きながら、僕は小さくうなずいた。
けれど、その胸の奥では何かが引っかかっていた。




