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小さな足跡の記録  作者: こう
病院での日々
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初めてのオムツ交換

次の休みの日、侑也はもう保育器を卒業してベビーベッドに移っていた。

わずか一週間のうちに、僕の知らないところでまたひとつ成長していた。

小さな左手を上に向けて伸ばすその姿は、ガラス越しでもよく見かけた“得意ポーズ”。

頑張っているな、と胸が熱くなった。


ちょうど沐浴の時間に間に合い、看護師さんが入れてくれる様子を見学することになった。

服を脱がせた侑也は、さらに小さく見えた。泣きながら手足を動かすその姿は、まぎれもなく生命力そのものだ。

お湯の温度を確かめ、そっと湯船に入れられた瞬間、泣き声がピタリと止まり、表情がふっと緩んだ。


「風呂ではぁ〜ってなってるオッサンと同じ顔じゃん」

思わず笑いながら妻に話しかけると、

「いい表情するよね〜」と妻も笑った。


あの小さな顔に浮かんだ安らぎは、どんな言葉よりも安心をくれた。


お風呂上がりにタオルで包まれた侑也を見ていると、看護師さんに声をかけられた。

「パパ、おしめ着けてみますか?」

その一言で、全身に緊張が走る。


初めてのおむつ交換。テープタイプのおむつを広げるところから戸惑いの連続だった。

「まずは広げて、テープのついてる方をおしりの下にひいて……」

看護師さんと妻のダブル指導を受けながら、言われた通りに動かす。

それでもぎこちなくて、「はい」と返事するしかない自分がもどかしい。

おむつを敷くために両足をそっと持ち上げると、柔らかくて温かい体温が指先から伝わってきた。

あぁ、これが“命の重さ”か——そう感じたその瞬間、ピューッと勢いよくおしっこを飛ばされた。


危うくかかりそうになったが、なんとか横にそれて事なきを得た。

「おお、元気じゃないか」

尿道下裂があると聞いていたが、まっすぐ飛ぶじゃないか。

思わぬ“初の洗礼”に笑いながらも、ほっと胸をなでおろした。


トラブルはあったが、なんとか交換を終えたところで先生がやって来た。

「炎症反応の値が下がらず、呼吸もしんどそうだったので、酸素を使う時間も少しありました。もしかすると、ミルクが合っていないのかもしれません。今日からアレルギー対応のミルクに切り替えてみますね」


僕たちが知らない間にも、小さな体は懸命に闘っていたのだ。

それでも、改善の見通しが立ったことが救いだった。

これで少しでも楽に、少しでも多く飲めるようになってくれたら——。


淡い期待を胸に、病院をあとにした。

外に出ると、夕暮れの空がいつもより少しだけ明るく見えた。

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