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終章:新たなる深度へ

 一年後。


 凪が発見したマヤの水中神殿は「サイレンス・ブルー遺跡」と名付けられ、世界的なニュースとなった。その学術的価値は計り知れず、マヤ文明研究に新たな光を投げかけた。


 遺跡には、これまで発見されたことのない象形文字が刻まれており、それは「深き青の神殿」を意味していることが判明した。古代マヤ人にとって、セノーテは神々の住む聖域であり、その最深部に神殿を建設することは最高の宗教的行為だったのだ。


 さらに興味深いことに、神殿内で発見された天体図は、現代の天文学でも説明困難な精密さを持っていた。古代マヤ人の宇宙に対する理解が、想像以上に高度だったことが証明されたのだ。


 凪は国際的な学術調査チームの一員として、再びあのセノーテに潜っていた。しかし、もう彼は一人ではなかった。


 彼のバディとして、翡翠が常にその隣にいた。


 彼女はこの一年で、彼に匹敵するほどの高度なケーブダイビングの技術を身につけていた。PADI テクニカルインストラクターの資格を取得し、トリミックスダイビングの認定も受けた。さらに、彼女は水中考古学の勉強も始めていた。


 夫を失った彼女が再び潜ることを決意するのは簡単なことではなかった。しかし、彼女は言った。


「あなたの光を、今度は私が隣で照らし続けたいから」


 二人は完璧なチームだった。凪の探究心と技術、翡翠の慎重さと愛情。互いの長所が相手の短所を補い、互いの存在が相手をより強くしていた。


---


 光の届かない青い静寂の世界。だが、そこはもう凪にとって孤独な場所ではなかった。


 隣にいる翡翠の存在を感じるだけで、そこは世界で一番温かい場所になった。


「翡翠、あそこを見ろ」


 凪は古代神殿の新たな部屋を発見した。そこには美しい壁画が描かれていた。


「これは...結婚の儀式の絵ね」


 翡翠が興奮して応えた。


 壁画には、二人の人物が手を取り合い、セノーテの水中で永遠の愛を誓う場面が描かれていた。まるで、彼らの物語を予言しているかのように。


「まるで俺たちみたいだな」


 凪が水中スレートに書いた。


 翡翠は微笑み、スレートに応えた。


「私たちも、ここで誓おうか」


 凪は驚いた。翡翠は水中で、彼にプロポーズしたのだ。


 凪は迷わずスレートに書いた。


「YES. FOREVER.」


 二人は水中ライトで互いを照らし合った。そして、レギュレーター越しにどちらからともなく笑い合った。


 水深80メートルの古代神殿で、二人は永遠の愛を誓った。それは世界で最も深く、最も静かで、最も神聖な結婚式だった。


 古代マヤの神々も、きっとこの愛を祝福してくれているだろう。


---


 その夜、CASA DEL MARで二人は祝杯を上げていた。


 店は今や、世界中の研究者やダイバーたちが集まる拠点となっていた。だが、その中心にいるのは、いつも変わらず凪と翡翠だった。


「君と出会えて本当によかった」


 凪が言った。


「私も。あなたに出会うために、私はここまで来たのね」


 翡翠が応えた。


 二人は指輪を交換した。それは水中でも外れない特別な設計で、凪が自分で作ったものだった。その内側には、モールス信号で『LOVE.YOU.FOREVER』と刻まれている。


「これからも、一緒に潜ろう」


「どこまでも深く」


「どこまでも遠く」


「そして、いつまでも一緒に」


 二人の恋は、誰よりも深く、そして誰よりも静かに、その新しい歴史を刻み始めていた。


 地上へと繋がる一本のガイドラインは、もう必要なかった。互いの存在そのものが、決して見失うことのない生命線なのだから。


 海の家に、新しい家族が生まれた。そして二人は、これからも世界中の海を一緒に潜り続けるだろう。


 光を求めて。


 愛を求めて。


 そして、互いの魂の最も深い場所を探求し続けるために。



エピローグ


 数年後、CASA DEL MARは世界中のテクニカルダイバーたちの聖地となっていた。


 凪と翡翠が共同で運営するこの店は、最高の技術とサービスを提供し、数多くの海洋探査をサポートしていた。


 店の壁には、二人が発見したサイレンス・ブルー遺跡の写真が飾られている。そして、その隣には、二人の結婚式の写真。水中で愛を誓う、世界でも類を見ない美しい写真だった。


 今日、新しい冒険者がこの店を訪れた。若いカップルで、お互いを深く愛し合っているのが一目でわかる。


「私たちも、あなたたちのように一緒に潜りたいんです」


 女性が目を輝かせて言った。


 翡翠は微笑んだ。


「素晴らしいわ。でも、まずは安全が第一よ。お互いを守り合うことから始めましょう」


 凪が付け加えた。


「一番深い海は、相手の心の中にある。それを探求するのが、本当のダイビングだ」


 そして今日も、二人は新たな冒険に向けて海に潜っていく。


 手を取り合って。


 永遠に。


 深き青の彼方へ。


(了)




















「君のガイドラインが、僕の生命線だった」


愛もまた、地上と深海を繋ぐガイドライン。*

決して切れることのない、魂の生命線。


そして今、二人の愛は新たな深度へと向かう。

終わりなき探求の旅路で、永遠に。

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