第8話「消されたログ」
ちょっと頑張って長く書きました
村の図書室——と呼ぶにはお粗末な、本棚数段だけの小さな部屋で、俺とエリナは古い記録を調べていた。
「やっぱり、変だ。ここ十年分の住民記録、ところどころ歯抜けだ」
「うん、名前も顔も記録がない。ただ、日付だけが並んでる」
エリナが手に取った一冊の帳簿を広げ、次々とページをめくる。その度に、ページの隅に小さな赤い印が押されていた。印には「NULL」とだけ書かれており、明らかに何か異常があると感じさせる。
「これ、誰かが故意に消したか、アクセス制限がかけられてるんじゃないか?」
「でも、どうしてこんな古い帳簿に制限が?」
俺は目を凝らしてページを見つめながら、頭の中でいくつかの仮説を組み立てていた。村に隠された秘密を解き明かすには、何かしらの鍵が必要だ。
その時、俺の目に飛び込んできたのは、村の外れにある古びた書類棚の奥に埋もれていた一冊の厚い本だった。埃をかぶったその本は、他のものと異なり不自然に新しさを感じさせる表紙が見えた。
「これ、もしかして……」
俺はその本を引き寄せ、エリナに見せる。エリナの目も一瞬でその本に引き寄せられたようだ。
「これ、何か重要なものじゃない?」
俺は本を開く。表紙の裏には、ただ一言『実験村03:調整不良の影響につき』と書かれていた。その文字が、俺の胸に冷たいものを流し込む。
「実験村03? これ、まさか……」
「カズマ、それ、読んでみて」
俺は手にしたページをめくる。中には、実験的に使われた村のこと、住民たちが記録ごと消失した事例、さらには実験が失敗したことが明記されていた。その中に出てきた言葉に、俺は驚愕する。
「……これ、実験だ。いや、実験だけじゃない。もっと恐ろしいことが書かれてる」
ページには、こう書かれていた。
『—村人たちの記録は定期的に削除される。覚醒率に達しなかった者は消去され、代わりに新たな“バグ因子”が投入される。——実験は“最終段階”に入った。』
「消去……バグ因子……」
エリナが震えた声で呟く。
「もしかして、私たちも……?」
俺はその言葉を否定することができなかった。確かに、エリナのステータスには異常があった。彼女の覚醒率が示すその数字には、明らかに“実験”の結果が隠されている。
「……俺も、覚醒率っていう言葉を聞いた時、ピンときたんだ。お前のステータスにも、何か大きな秘密があるんだろう?」
「私のステータスが変だったのは、覚醒率のせい?」
「そうだとしたら、俺たちは“選ばれた者”じゃなくて、実験の“対象”だ。村の記録消失も、俺たちのステータスの不具合も、全部繋がってる」
その時、急に部屋の外で物音が聞こえた。誰かが近づいてきた音だ。
「誰か来た?」
「隠れた方がいい」
俺とエリナは慌てて本を元の場所に戻し、部屋の隅に身をひそめた。少し息を潜めていると、足音が遠ざかるのを感じ取った。誰かが通り過ぎたようだ。
「どうやら、この村の“秘密”に気づいたのは俺たちだけじゃないみたいだな」
「その通り……でも、私たちだけじゃ無理だよね?」
エリナが不安げな表情で俺に尋ねる。
「そうだな。誰かと協力しないと、この村の謎を解くのは無理だ」
「でも、今のところ誰を信じればいいのか……」
「それはまだわからない。でも、今はあまり動かない方がいい。少しずつ調べて、見極めていこう」
俺たちはその後も村の図書室で記録を調べ続けたが、実験に関する手がかりはますます怪しくなり、警戒しながらも進めていった。
その後、夕方になり、村に戻ると、村人たちの様子が微妙に変わっていることに気づいた。
「さっきまでの騒ぎはどこへ?」
村の中心にいた人々が急に静まり返り、誰もが互いに目を合わせることなく、さっさと自分の家へと戻っていく。
「……何か、変だ」
エリナが低い声で呟く。
「気のせいじゃない。村全体が、監視されているような感じがする」
その瞬間、俺のウィンドウに再びエラーが表示された。
【!エラー!】
【閲覧制限データにアクセスしました】
【制御コード未定義:仮想識別子“カズマ”は存在しない?】
「まただ……!」
「カズマ、これは……」
エリナの顔も青ざめている。
「もし、俺が消される対象だとしたら……今、何かが動き出してるのか?」
俺はエリナを見つめ、決意を固めた。
「とにかく、今は動くべきだ。次の手がかりを見つけて、真実を明らかにする」
だが、その先に待ち受けるものが、想像を超えたものだと俺はまだ知らなかった。
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