夜明けの明星⑥
今日の夜はまた違った意味で眠ることができなかった。
時刻としては日付が回る寸前、午後二十三時三十分を少しだけ過ぎた頃。今日朝食を食べた後に売店で買ったペットボトルの水を口にしながら、朝食の時にロディ・リッチメインという自称〝特異体質者を研究している組織の人間〟から貰ったノートパソコンの煌々としたディスプレイを眺めていた。
別になんら変哲ないノートパソコンのディスプレイの煌々とした光りは、灯りの消された部屋の中に眩しく突き刺さる。静寂を壊さぬよう隣のベッドで眠っている胡乃葉を起こさぬよう、頭から毛布を被ってその中で自分はノートパソコンを眺めていた。相変わらず列車の微振動が心地良い。だが目の前のディスプレイに表示されている内容は、その居心地の良さすら帳消しにしてしまうような驚きがあった。
ノートパソコンの中には十個ファイルが存在していた。一つひとつのファイルには番号が振り分けられていて〝1〟と記されたファイルから2、3、4、5……と続いて〝10〟と記されているファイルが、目の前のノートパソコンの中に入っていた全容だった。ファイルを開けてみないことには何がどうなるのかも検討がつかないが、自分は開けることを結構躊躇った。
まぁ……開けてみないことには何も始まらない、か……。
そこに自分が好き勝手選べるような選択肢など存在しないとロディ・リッチメインとの会話の時から分かっていたが、こうも無条件で自分の進むべき道が進呈されると心象はあまり良いものではない。まぁ、ごちゃごちゃ言う暇があればファイルの一つでも開いてみるか。
マウスなんてものはないから、自分はノートパソコンに備え付けられているタッチパッドに指で触れ、タッチパッドを介してカーソルを操作した。まずはファイル〝1〟を開けてみることにした。
……なんだ、これ?
多分恐らく全てのファイルがそうなのだろう。ファイル〝1〟の中には一つの映像のデータが入っていた。その一つひとつは目の前の映像と同様に短いものなのだろう。少なくともファイル〝1〟の映像は五分にも満たない短いものだった。その映像をクリックして観てみた。
これが……自分の記憶を取り戻すきっかけの一つになるのか……?
目の前の映像はハッキリと言えば〝何かしらの取り調べを行っている映像〟だった。
雪よりも白い、まるで研究室のような取調室の中で行われている取り調べを受けているのは外国人、恐らくアメリカ人のブロンドヘアーの女性で、机を挟んで向こう側にはスーツ姿の男二人が取り調べをしていた。その男二人の内の一人の男は机を挟んで、面と向かって容疑者である女性と話している。そしてその後ろからベテランの刑事風の男が壁にもたれかかりながらその取り調べを静観していた。
自分はファイル〝1〟の映像を見終わると、次はファイル〝2〟の映像を観た。そしてファイル〝2〟の映像も見終わるとファイル〝3〟〝4〟と立て続けに観始め、時間としては一時間超えるか超えないかくらいの時間をかけて、全てのファイルの映像を観終わった。全てのファイルに含まれている映像はやはり全て何かしらの事件の取り調べの映像であり、視点は全て同じ〝監視カメラ視点〟で記録された映像のようだった。
――だが何故? 何故自分がこんなどこで起きたかも分からない事件の取り調べの映像なんて観なくちゃならないんだ?
全ての映像を観終わったその疲れもあってか、自分は急激に不満がこみ上がってきた。これが何か自分の記憶を取り戻すヒントになるとは思えない。実際に、きっかけになりそうな映像というのも今のところ何もなかったし。
だけど自分は、それは無意識的なものだけど――五分ほど車窓などを眺めてクールダウンした後、またすぐにファイル〝1〟から順番に全ての映像を観始めた。自分はそうして、ディスプレイが放つ煌々とした光りを浴びているうちに、いつしか眠ってしまっていた。列車の走行音が次第に耳から離れていく感覚を覚えたときには、もう空は明るみを覚えていた。




