十一話 見境の見えない殺意
その後俺達はお風呂に入って暖かいご飯を食べてのんびりしていた
「さて…そしたらもう就寝にしますか♪」
「はーい!ディアさんおやすみなさい!」
「おやすみなさい♪あ…ルテロちゃん…ちょっとお話があります」
「じゃあルテロッテ!先寝てるね!」
エメラが寝室に言ったあと
ディアさんは真剣な顔で俺のほうをじいと見つめていた。
「…こちらに来ていただけますか?」
「…はい」
ディアさんは俺の頭をポンと触り撫でると
「やっぱり…いや…もしかして…」
「……なにかありましたか?ディアさん」
「ルテロちゃん。眠くないですか?」
「えぇ…大丈夫です」
「ならば少しお散歩をしませんか?」
「……?」
俺は訳も分からずディアさんに着いていった。ディアさんが歩いて着いた先は俺とエメラが初めて会った洞窟の底だった
「ルテロちゃん。貴女はここに堕ちてきました」
「……はい…堕ちてきました」
「不思議に思いませんでしたか?自分の身体に」
「…?」
「貴女は…堕ちても無傷だった…ぼろぼろの服は血でまみれていたけど…貴女は無傷でそこで眠っていた」
確かに…この疑問を俺はずっと忘れていた。なんで血まみれだったんだか。なんで堕ちても死ななかったのか…謎だらけなのになんで放って置いていたんだろう…
「…一つ」
「……」
「一つだけ心当たりがあります…」
「………それは…なんですか…?」
「グルーヴというのがこの世界にある…ということは覚えていますか??」
「えぇ…少しだけ…」
「…死を目の前にしたときに発現する特別な力」
「この状態に出来るグルーヴは…私が知っている限り…【殺意】のグルーヴ以外あり得ません」
「殺意のグルーヴってことは…ディアさんの主様と同じ…!つまりこの洞窟を抜け出せ…!」
「えぇ…その通りです…しかし殺意のグルーヴは…強くも恐ろしいグルーヴ」
「グルーヴ【殺意】はその『相手を殺したい』。『自分が生きたい』と言う強い意思から発現する特殊なグルーヴです…一度発現すればその人間は寿命が来るまで不死身になりますし…膨大な力が涌き出てくる。しかし不死身になるだけで痛みは伴って来る上、殺意や苦痛を操れるほど精神的に熟していないと見境なく恨みを撒き散らそうと攻撃をしてしまう狂暴な人間になってしまうのです…」
「……」
「申し訳ありませんが…ルテロちゃんは私から見たら…頭も優れて…大人びている印象を受けてこそいれどどうしても精神的に熟しているかといわれれば未熟者…と呼ぶべきなんです」
「…それは自覚しております…」
「……一つこの話を聞いてもらった上で質問させていただきます…」
「……?」
「貴女は…もし仮にここを出たとして…命の危険を感じ墜ちた時と同じように【殺意】を発現してしまった時…」
「その殺意でエメラちゃんやこれから出会うであろう大切な人達を…殺めてしまったら…どうしますか?」
「……え…」
「それに耐えることの出来る……覚悟は…果たしてありますか…?」
「そんなことない!俺はお前のことは…」
「偽善者ぶるな!大嘘つき!お前なんか…お前なんかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「…っ…!」
「ルテロちゃん…?」
「…はぁ……!はぁ………っ!?…ぁ…あぁ……っ!?」
呼吸が荒くなる…今すぐにでも死にたいこの気持ち。怖い…身震いが止まらない
もし次また同じことをしたら…死ぬだけじゃ…飽きたらない……壊れちゃう…
「ルテロちゃん…!」
ほのかな暖かみが俺を包み込む…。柔らかくも優しい香り。俺の震えもこの感情も鎮まっていく…
「ごめんなさい…私がこんな話をしてしまったから…」
「………」
俺はディアさんに抱き締められながら…放心していた…人の温もりを久々に感じた。泣いて良いかも笑って良いかも分からなかった。
「…ディアさん……」
「大丈夫…私は貴女の味方…もう怖くないよ…大丈夫…」
ディアさんはそういうとポンと頭を撫でた。ディアさんの羽が自分を離さないように…俺を隠すように包み込む
「…大丈夫…大丈夫だよ…」
「…怖い…」
閉じきったように出なかった助けの声がやっと出た
「…自分が怖いんです…いつどんなときに誰かを傷付けてしまうということが…」
「…衝動的に…攻撃的に誰かを傷付けてしまうことが…怖いんです…」
「…そうですね……」
「…どうすれば…これを抑えれるのか分からなくて…どうすれば治るんだか…分かんなくて…暗闇の中をずっと歩いてるんです…」
「…頑張ったんですね……」
「……ぅぅ……うぅ……」
俺はしばらくディアさんの胸の中で泣いた。前世ですら解決できなかった問題が今解決できるかどうか分からないけど…とりあえず泣いた。
【ディア視点】
この子達の最初はエメラちゃんから始まった。
幼くも助けを求める声。
生まれた頃から知性を感じた時成長が早い竜人の幼子が洞窟の中にいるということが分かった。
そして…そのうちもう一人ベルッタ族の子が堕ちてきた。ベルッタ族…生前の私と同じ種族
悪魔になる前の私の種族…凄くいやなことを思い出した
二人が堕ちてきた時…少し緊張していた
この子達に不安を振り撒かないように…
しかし。私が思う以上にこの子達は不安どころか希望を持っていた。長く多くこの洞窟に封印されていた私に希望をくれた。
そして…大きな希望が現れた。私と同じ種族の子が…【殺意】の力を持っていた。
この力があれば…この子達を外の世界に出してあげることが出来る…。この好奇心と興味を持った希望達が世界を明るく包んでくれる。
そう確信した。
打ち明けたとき…この子は怖がっていた
優しくないと思えない…この子に【殺意】のグルーヴを持つには荷が重すぎる。
私は手を繋ぎこの子を寝かしつけたあと…一人でゆっくりと考えた