考福9.真実が導く涙の日
【真実】
時に人を喜ばせる。悲しませる。落ち着かせる。苦しませる。
溶けていく棒アイス。隠れていたのは当たりか。無か。
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有他の真実を知った私は、
この閉鎖された空間で一人ぼっちになった。
手には暗上先生の連絡先。
部屋の鍵は開いている。ただ、外に出るのが怖かった。
無機物が二つある。
「あなた達は、人工知能?」
《しばらくお待ちください。》
『私は研究施設警備用ロボットΔου-λοι087』
『私は人工知能脅威対策用ロボットSer-VANT992』
「ここ、研究施設なんだね。あなたの方は…」
『私は人工知能脅威対策用ロボットSer-VANT992』
やっぱり、そうだったんだ。
Ser-VANT992。確認をとった私は、勇気を出して外に出た。
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先程まで家の形状を保っていたが、
またあの白い空間に切り替わる。つまり、カサがいる。
「そろそろ気づいてきた?自分が何者か。」
「分からない。何故僕が白山に狙われたのかも分からない。」
「いい加減にして欲しいな。あなた、医学生なんだってね?」
続けてカサは問う。
「なんで医学生なの?」
「ゴミ置き場に捨てられてた僕を助けてくれた人がいたんだ。」
「ユーリか。」
「うん。僕もそうやって、色んな人を救えたらって。」
何か可哀想だね。
カサはそう思ったような顔つきで僕を見る。が、すぐに戻る。
すると、カサは涙を流し始める。
「カサの最初を、返してよ……。」
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家だ。家だったものだ。
後ろから足音がする。
「ミハタちゃんだ」
「…って、思ったでしょ。というか、分かったでしょ。」
お見通しだったようだ。
ミハタちゃんは笑っていた。が、下を向いた瞬間。
携帯を取り出した。
「暗上先生、」
その名前を聞いた瞬間、僕の過去がえぐり取られた。
「彼、手遅れでした。」
ミハタちゃんは泣きながら報告する。
そうだ、これはきっと、僕がやったのだ。
ユーリさんは、僕が、殺したのだ。
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「ねえねえ黒海、名前どうしよっか?」
「そうだなあ。俺は黒に海で黒海。紅谷は紅に谷で紅谷でしょ」
「あ!じゃあ色に関する名前にする?」
「そうだね俺もそうしたい。うーん……」
「あっ!こんなのはどうだ!」
「あっ!こんなのどう??」
「「虹!」」
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「……何!?……分かりました。今向かいます。」
私は黒海の許可のもと、Ser-VANT992と向かった。
急ぐ。
急ぐ。
もう君が、人を殺す姿は見たく無いんだ。
また脳が私に話しかける。
「アメ。」
「彼がまた人を殺したそうです。」
「それは、安楽死?」
その単語に、喉を詰まらせながら否定する。
「……いいえ。」
「私は彼を救いたい。」
「救うって。先生にとって救済って何?」
「私にとって救済とは…、あるべき場所に、正しい方法で返す事です。」
「アメ…。もう、白山 紅谷さんでは無いのですね。」
「先生がそう思うなら。」
「いつでも虹を作る準備は出来てたんだけどなあ。」
急ぐ。
急ぐ。
足を止め前を向く。
「暗上先生!!」
そこには浅田 深畑さんと、倒れた劣表 優裏さんがいた。
彼の姿は、無かった。
Ser-VANT992は彼のいるであろう方向へ走り出す。
「まだ助かる。優裏さんは私が対処します。」
できるか、今の私。
““私の殺し方を間違えた貴方に何ができるの?””
心から聴こえるその声を遮って、私は走った。
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沈黙が鳴る部屋。
『Ser-VANT992との通信が切断されました。』
「そうか…。」
『向かわなくても良いのですか?』
「向かうさ。デューロイ。君はここに居てくれ。」
「私がケリをつける。」
『スリープします。』
デューロイの電源を切り、
二度と帰ってこないであろう研究施設からこの身を離した。
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室内に響き渡る心電図の音。
リズムは刻まれていない。
「医師免許を剥奪されたのに、無理したからだよ。」
「じゃあ見捨てれば良かったのですか!?」
「変わってないね。先生。」
「え…?」
「黒海が、彼を止めに行ってる。」
「暗上先生。」
しかし私はまた一人…
「私はあなたに助けを求めてる。なんでか分かる?」
「私にとってあなたはまだ、一人の医者なの。」
だが私はあの時彼を利用して、あなたの最期を苦しめた!!
「彼だって!私にとっては救世主。」
「私、子供がいたんだ。もう名前も決めてて。」
「虹。あの子が歩いた道は、全部宝物。」
「虹が生まれて、大きくなったら渡そうと思ってた。」
涙を拭くと、右手は小さな傘を握っていた。
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有他は、泣いてる。
泣いてるに違いない。
自分が人を殺めたこと。
これまでに何人も殺めていたこと。
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