考福8.何もかも燃えゆく日
【捕獲】
生き物を捕らえる。生き物と捉える。
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目を開けたら、男が二人。
無機物が一つそこにはあった。
無機物は瞬きもせずこちらを見ている。
あの男は…間違いない、僕を攫った男だ。こちらに気づいた。
「目覚めたか。」
その立ち振る舞いは研究者のそれだった。
少し髭を生やした。白い衣服を身にまとった男。
医学生故正直ちょっとかっこいいとか思ってしまった。
「お前、」
その一言で全身が固まった。
「友達できたのか?」
「あの女…」
その言葉を聞いた瞬間、掘り返される近い記憶。
「ミハタちゃんはどうした!?」
勢い良く起き上がり、こいつの胸ぐらをつかもうとしたが、
無機物に止められた。
「なんだその人差し指は…?」
男は僕に指を指す。無謀だが睨みつけてみる。
男は出た人差し指を他の指と並べ、親指でおさえた。
男は唐突に自己紹介を始める。
「私は白山 黒海。」
頭に引っ掛かりを感じたが、すぐに消えた。
「話をそらすつもりか?」
目の形を変えず、口の部位を動かす。
僕の反抗を無視し、無機物の息の根を止め、白山は去った。
「やはり分からないようですね。」
また違う男が喋り出す。
「君はここにいるべきでは無かった。」
僕にはその言葉が、男の脳から聞こえた。
途端。また視界が認識を諦める。
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「やめて!やめてっ!」
抵抗は無駄だった。
あの恋も唯の記憶だった。
友達は離れていった。
それでも私にとって確かに幸せだった。
冷たい腕に囲まれて。心臓の音も聞こえない。
ロックを解除する音。ドアが自動で開く音。
キーボードを叩く音。椅子に座らされる音。
『対象の捕獲に成功。』
その言葉で、私は現実に連れ戻されてしまった。
目の前に二人の男。
あの男は…間違いない、有他を攫った男だ。
「有他はどうしたの!?」
勢い良く起き上がり、こいつの胸ぐらをつかもうとしたが、
それでは聞き出せないと察して、諦めた。
「ユータって呼んでるんだね。」
どこか泣きそうな医者が一人。
「あなたは…?」
「私は…暗上 明下。」
「君には申し訳ないが、ユータ君と友達をやめて欲しいんだ。」
「何?なんで?説明されないとわかんないよ!」
次の暗上先生の言葉で、私はそう言った事を後悔した。
「そうですか…彼は」
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荒れた家。
つかない照明、
出てこない水、
破壊された窓、
開きっぱの扉、
拡がりゆく火、
表示されるはカラーバー。
1歩、進む。
足に何かがあたる感触。
生き物だ。
下を向く。
そこには人があった。
ユーリさんが。
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