考福6.医者が患者を殺めた日
【死】
生命の結末。場合によっては救済。
果たしてそうか、その果てはそうか。
人が人を殺める。それに人は喜怒哀楽を駆け回る。
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この手で彼女を救えただろうか?
この手で意志を受け継いだのか?
この手で誰かを苦しめたのだと、粘りつく慟哭。
向き合うべきは、私だけ。
全て私が悪いのです。
イヤーワームはリズムを刻まぬ心電図。
彼女の最後の言葉は、音でしか無かった。
彼女の墓にラズベリーの花を一本添えました。
「まだ後悔しているのか、暗上 明下。」
「黒海さん…。」
「本当に、紅谷さんの件に関しては…何と言ったら良いか…」
「…ああ。だが私にも責任がある。」
その言葉に、私は何も返せなかったのです。
「彼がいなくなったというのは、本当ですか?」
「ああ。一刻も早く回収しなければ…紅谷のようになる者が増えてしまう。今の所そのような被害は無いが回収を急ぐ。」
私はいつまで後悔しているのだろう。
そう思いつつも、後悔しなければいけないという使命感に、
脳を抑えられる。
あれは、雨の降る夜の日。
男性が、1人の女性を抱えて私のもとにやってきたのです。
交通事故のようでした。
女性の方はかなり重症でした。
肩の位置はずれ、首は曲がり、眼球の一部がはみ出ている。
異常なまでに外気にふれる眼球の下から、涙。
痛ましいとはまた違う、切なさを感じてしまいました。
男性の方は腕が機能せず、切断をすることに。
女性の方は感情だけが残り、喋る事はできた。
「お願いします、暗上先生。」
彼女は今でも、私の脳で願い続けている。
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“カサの最初を返してよ”
あの空間は何だったのだろうか。
あの少女は何者だったのだろうか。カサと言っていたが。
確かに、夢ではなかった。
「おーい、飯だぞ有他ー」
その声はいつも僕を現実の中の現実に引き込む。
「はーい」
白米と味噌汁に加え、スパゲティとピザ、トウモロコシの入ったラーメンやジャガイモが机に置かれ、ユーリさんはそれらをひとりで全て食べた。
最初はその全てを網羅したような料理の種類を見て
(ここが地球か…)とか思ったが、もはや見慣れた光景だ。
イマイチお腹の空かない僕は、毎回ユーリさんの食べる姿を眺めるばかりだった。
何故こんなに食べられるのだろう、胃袋が複数あるのか?
そんな馬鹿げた考察をしている間に、机の上の物は消えていた。
「ごちそうさまでした。」
毎日3回行われる形式的な挨拶をして、その時間を終えた。
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脳から声がする。
「アメ。」
その声を聞くと、やはり涙が流れて止まらない。
「申し訳、なかったです。」
何度も何度も謝罪を繰り返す。何度も何度も。
「謝らなくてもいいってー!」
彼女は元気そうな声で私に言う。
「真面目なお医者さんだねー、暗上先生は。」
その言葉を、どこか正面から受け止められないでいた。
「黒海は?」
「…向こうの部屋にいます。」
「まだなんか作ってるんだ。変わらないね。」
彼女の親切に気づけないまま、話を戻す。
「全て私のせいです。紅谷さんを苦しめたのは、私です…」
あの時には、日本では安楽死が認められていた。
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