考福5.カサの最初を奪った日
【友達】
仲間。期間は人によるが、理解し合えるべき存在。
そこから恋人へ発展する可能性。縁を切る可能性。同居。忘却。
様々な方面へ糸を伸ばす、中核。
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数ヶ月が経ち、ミハタちゃんが家に来る事も多くなってきた。
呼び鈴。ミハタちゃんだ。
「おじゃましまーす!」
「お!深畑ちゃんじゃないかー、有他。今日帰ってくるの遅くないか?」ユーリさんは言う。
そうだ、今日は帰るのが遅れてしまったのだ。
「変な寄り道してないだろうなー?」
していない。そう返事をしようとしたその時、
「おじさん聞いて下さいよー、彼ねー、講義でめちゃくちゃ寝るんです!」
被せるように僕の欠点を吐く。
「なんだとー?有他お前、出来るからって調子乗るんじゃないぞー?自分で学費出してる訳じゃないんだから…」
仕方がない。一定の時間になると何故か毎回目を閉じてしまう。
生き物の運命だ。
が、認めたくないという気持ちがどこからか湧いてくる。
「寝てません。僕は1秒たりともこの瞼を下に下げたことはありません。」無理な言い訳をしてみた。
「本当かー?」
疑うミハタちゃん。やはり少し田舎の匂いがしてきたな。
「まあいいや。まだお母様は海外出張ですか?」
そうか、ミハタちゃんは知らないのか。僕が拾われた存在である事を。ユーリさんはカタチだけの父、架空の母は海外出張中という設定でミハタちゃんに浸透しているのだ。
つまり今僕は、『劣表 有他』なのだ。
「きっとすっごく美人なんだろうなあ…有他のお母様」
それは僕がイケメンという解釈でいいだろうか。
「それって、ウチの有他がイケメンって事?」
聞くとは。
「ぜぜっ、全然関係ないですよね!?やる事山積みなんで帰ります!!おじゃましました!」
嵐のように過ぎ去った。僕の母 ──
途端、家が何も塗られていない果てに切り替わる。
複数の傘。間違いない。僕が僕として最初にみたあの景色だ。
やはり、いる。
「あなたに母親を知る権利なんて無い。」
「誰なんだ、君は。誰にだって知る権利はある。」
「カサ。あなたはその権利を奪った。成功したと勘違いしているのか?ふざけないで。」
そんな事を言われても、僕には何の記憶も残っていない。
口に出そうと思ったが、どこからか迫る圧に耐えられない気がして、口を開くのをやめた。
「カサの最初を返してよ。」
その言葉を聞くと、五感が家を認識していた。
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