考福4.過去の景色が色取る日
【恋】
甘い。酸っぱい。
毎日が暑く湿る夏。
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入学することになった。あまり勉強した記憶はないが。
もしや自分天才なのではと錯覚するほど何もしていない。
入学早々、ひとつ上の女性に出会った。
どこか潤ったような目をしている。
口は開いたままだ。一瞬銅像かと思ったが、生きている。
「あ、あのー…」
口は開いたままだ。一瞬絵画かと思ったが、生きている。
「あのー!」
「はいィィィィ!」
口が開いたままだ。僕が。
「ごめんなさいごめんなさい一瞬ローr…」
彼女は何かを言いかけると、1度咳き込み言い直す。
「ロールキャベツかと思いまして!!!」
????????????
!
潤っているという事か。
「ありがとう!!!」
????????????
どういうこと?何を言っているの、この人は。
でも口角が喜んでる。なんでだろう。
あ、もしかしたら私この人のこと…いやいやそんな筈ない。
私がこんな田舎臭い男と喋るなんて…あれ?今喋ったよね私喋ってたよね?この男と。嫌だ私も田舎臭くなっちゃうじゃないとか思う筈なのになんでだろう全然そんな気がしない。あ、うんやっぱり私この人に一目惚れしたのかもしれない。思えば思うほどそう感じる。好きだ、好きだ!
「あの!」
「お名前、お聞きしても…」
「僕の?僕は…有他。あなたは?」
ドゥキッ。
「私は…浅田 深畑!」
しまった。私とした事が。
ハキハキとした私の声が、校内中に鳴り響いた。
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あれから何年経つか。
輝く光を前に、心が黒く染まっていくのを、内から鳴り止まない音と共に体感したあの時から。
守った、私は守った筈だった。
守れた筈だった。
「黒海。」
誰かが私の名を呼ぶ。
「なんだ。」
「まだ、後悔してるのか?」
「黙れ。私は研究で忙しいんだ。」
「また何か物騒な事考えてんじゃねえだろうな?」
「物騒?私は耐えられないだけだ。医者が苦しむ世の中が。」
「まあ、国が認めちゃーねえ…」
「帰ってくれ、得実。」
存在しない左手を眺め、深く息を吐く。
温かくも、冷たくもない。
この閉鎖された空間で、私は研究を続けた。
あの紅色を想いながら。
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