現実逃避
私には密かな趣味があった。
けど趣味といっても大層な事ではない。
仕事の帰り道や出張先で知らない道を探すことが私の趣味であった。
道というのは不思議である。
通い慣れた道でも知らない事は多い。
それは道を歩き慣れることにより無意識下で必要情報以外を排除しているからかもしれない。
けれどそれは些かもったいないと思わないだろうか。
私は思っていた。
よって、日によってちょっと意識して周りを見るようにしていたのだが――。
これはそれを止めた話。
★
その日は会社の帰りであった。
いつものように慣れた道を歩きながら新しい道を探していく。
けれどこの道は殆ど知り尽くしたと言っても過言でもなかった。
設置されている自動販売機の商品に変わりゆく公園、そしてマンションの数などもう調べることがない。
気持ち悪いと言われればその通りだが、このくらいしか楽しみがない毎日。
その日も通報されない程度に周りを見渡し歩いていた。
「? 」
道から少しずれた所に子供がいた。
私が会社から帰る時間帯なので小学生ほどの子供が外にいるのは不自然と思った。
声をかけようにも逆に通報されるかもしれない。
そう思いとどまってどうしようかと考えていると、彼は素早い動きで走っていった。
「! 」
――驚いた。
そっちは壁しかないからだ。
思わず彼について行くと、先ほどの小学生らしき子供が背を向け体育座りをしていた。
「君。どうしたんだい? 」
声をかけるも返事はない。
警察に連絡した方がいいか、と考えスマホを手に取る。
電話アプリを起動して番号をタップしようとすると、——ドン!!! お腹あたりに強烈な衝撃が加わった。
――あ、と思うも遅い。
思わずスマホを宙に投げ、バタンと道路に倒れ込む。
痛みに遅れて熱さを感じると「うお! 」という声が聞こえ、「何してんだオッサン!!! 」と怒鳴られた。
痛みに悶えながら顔を横向けると、自転車に乗った人がこっちを見て怒鳴っている。
「キャハハハハハハハハ!!! 」
声に驚き体を起こす。
するとそこには子供がいて、こちらを指さし大笑いしていた。
「このっ!」
――やって良い事と悪いことがある。
叱ろうと子供に近付こうとすると、すでにその子はいなかった。
狐につつまれた気分で呆然としていると自転車の人がやって来る。
彼に謝りながらも「さっきのは一体」と首を傾げるのであった。
この事を理由に私は趣味を止めた。
案外無意識下で切り捨てている情報の中には、知ってはいけないものがあるのかもしれない。
そう考えさせられた、帰り道の出来事であった。
タイトルの「現実逃避」は主人公が現実から逃げるために逃げ道として新しい道を探していた、とうことです。一応。
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