表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/55

第34話:涙の意味01


 自意識を確立した頃から俺は一つの命題のみを考えていた。


「死とは何ぞや?」


 母親の墓前に立つ度に、その思いは強まっていく。まるで機械のように演算と再入力を繰り返す。出力は得られない。思惑の迷路が俺を絡め取る。そんな折りだった。父親が今の母親……水月さんと再婚したのは。


「あう……あうう……」


 必然、俺は義母の連れ子である鏡花と義兄妹の関係となった。


「あうう……」


 父親と母親の馴れ初めは、この時点では聞いていない。後から知らされたが、いと普遍的理由だった。問題は鏡花。


「あうう……」


 母親は最近夫を亡くしたらしい。鏡花にとっては父親を失ったわけだ。それから鏡花は学校にも行かず実父を想って泣くだけの存在だった。


「あうう……」


 宛がわれた部屋の端っこで泣き続ける。涙が止まらないらしく登校拒否状態だった。ひたすら部屋の隅っこで泣き続ける鏡花に俺は声をかけた。


「何が悲しいんだ?」


 もしかしたら……。


 そんな思いがあった。


「もしかしたら鏡花は答えを知っているかもしれない」


 俺が墓前に立つ度に強く成っていく疑問の答えを。


「あうう……」


 泣きながら、両手で涙を拭って、


「お父さんが……いなくなった……」


「死んだってのは聞いたが……」


 ガシガシと後頭部を掻く。体育座りで丸くなっている鏡花を、立っている俺が見下ろす形である。


「お母さんが……お父さんを……燃やした……」


「火葬な」


「お父さん……お父さん……!」


「俺の父親じゃ駄目なのか?」


「お父さんじゃないもん!」


「ま、そうだよな」


 どこまで行っても代替物だ。


 だから、


「羨ましいな」


 俺は率直に言った。


「ふえ……」


 鏡花の涙が止まる。信じられないものを見る目で俺を見た。


「お父さんが死んだのが……羨ましいの……?」


「そっちじゃねえよ」


「どっち……?」


「死んだ父親のために泣けるお前が尊いってだけだ」


「泣き虫……だから……」


「いいじゃないか。泣いて見送れるなら」


「お父さん……天国で……怒ってるかな……?」


「むしろ喜んでいるんじゃないか?」


「何で……?」


 意味不明。


 意思不明。


 意図不明。


 そう顔に書く鏡花。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ