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第32話:乙女心の行く先は12


 四人で大きなベッドに寝そべる。俺の両隣にはフレイヤと鏡花。朱美はあぶれている。とはいえそれは規定内での約束事であって『俺の隣で寝る権利』は日ごとにサイクルで順番が回ってくる。


 俺には寝苦しいことこの上ない。


 絶世、不世出、空前絶後に摩訶不思議。かしまし娘は誰もが有り得ない美貌だ。


 俺が思春期の少年なこと忘れているんじゃあるまいな?


 特にフレイヤ。巨乳を俺の腕に押し付けてきて、


「ねんねーんころりよ。おころりよ。坊や良い子だ。疾く眠れ」


 俺をあやすように歌を唄う。ちと新解釈が聞こえてきたがスルーで。


「なんのつもりだ?」


 嘆息混じりに問うと、


「子どもを寝かしつけるのもお母さんの役目だから」


 フレイヤは邪気無く笑う。常夜灯であるためどれほど晴れやかかまでは見えないが、きっと秋桜の様に笑っているのだろう。


「あ、おっぱい吸う?」


「お前のおっぱいはいらねぇよ。ついでに歌も止めてくれ」


「もう。照れちゃって」


 プニっとフレイヤが俺の頬をつついた。


「可愛い可愛い金也ちゃん」


 格好良いとはよく言われるがな。顔だけ男だし。


「にゃ~ん。可愛いなぁ」


 ギュッと乳房が押し付けられる。ほとんど零距離に顔が近づくと、


「チュー」


 キスされた。頬に。


「兄さん?」


「金ちゃん?」


「文句ならフレイヤに言え」


 ていうかお前ら……俺の何が良いのよ?


 残酷な天使の命題。


「フレイヤは俺が好きなのか?」


「愛してるよ?」


「母としてだろ」


「当たり前じゃん」


「何でキスする?」


「金也ちゃんが可愛いから」


 侮辱されてる気分になるが、おそらく他意は無いはずだ……多分。


「子どもを寝かしつけることもそうだけど、おやすみのチューもお母さんっぽいでしょ? 世間では初めての恋人がファーストキスの相手だって言われてるけど、実は祝福されて生まれてきた子どもの唇はお母さんに奪われてるものなんだよ」


「分かる様な分からん様な理屈だなオイ」


「とにかく金也ちゃんは幾らでも甘えてくれていいの。何でも叶えてあげる」


「アメリカに帰れ」


「照れちゃってぇ」


 痛痒を覚えないらしい。フレイヤならばそうだろうが。


「なんなら唇にキスしてあげよっか?」


「親父と間接キスになるから嫌だ」


「一応生まれ変わりだからその辺は大丈夫なんだけど……」


「好きな男でも見繕ってキスしてやれよ。お前なら引く手数多だろ?」


「金也ちゃんのお父さんになっちゃうよ?」


「……俺に父親は既に居る」


 本気でコイツとの会話は疲れる。


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