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第3話:母が訪ねて三千里03


 目の前に飛び込んできたのはわかってはいたが雄大な豪邸。贅を凝らした消費の極み。たしか外国人の家とのことらしかったし、目の前にあったのは古い日本家屋をそのまま豪邸にしたかのようなソレだった。


 木造建築。瓦屋根。竹が生えている。


 それ以上は屋根付きの壁に阻まれて見えなかった。で、何の因果か屋根付き門戸が丁度うちの玄関と道を挟んで対称的に添えられていた。


「金持ちの別荘かね?」


 俺が首を捻る。和風建築であるのは疑いようも無いし、これを外国人が建てたのなら、そんな疑念も湧く。


「神鳴市は避暑地ではありませんが……」


 鏡花も対面のご近所のセンスに首を傾げていた。表札に記された姓は確かにゴールドーンと読めた。夏休み中は日本人が引っ越してくるとの観念に囚われていても、表札を偽る理由もお向かいさんにはないだろう。であれば外国人が日本文化万歳で建てた豪邸であるのは必然だ。兄妹揃ってそんなことを思っていると、


「金ちゃん」


 活発な声が聞こえた。義妹の表情に影が差す。


「よう朱美」


 朱美……灼火しゃっか朱美あけみ


 俺の幼馴染みでクラスメイトなお隣さん。先ほどスマホで連絡を取った相手だ。業の深い赤い髪と赤い瞳を持つ美少女。鏡花が大和撫子のように静の印象なら、朱美は元気溌剌な動の印象。性的シンボルが残念で当人のコンプレックスではあるも……これに俺は関係ない。頭を動かすより体を動かす方が得意なスポーツ少女でもある。ちなみに入部しているのは文芸サークル。


 とまれ朱美は俺ら二人を見て、


「また鏡花は……」


 と渋い顔になった。


「何か文句でも?」


 ツンとすました顔の鏡花に、


「ありまくり!」


 朱美は火を吐くように吠えた。


「兄さんの隣はいもうとの特等席ですので」


「金ちゃんはそれで良いの?」


「今更だろ」


 義妹の鏡花と幼馴染みの朱美。二人揃えば俺を挟んで奪い合いが始まる。鈍感主人公じゃあるまいし、こうまで喧々諤々されたなら二人が俺を慕ってくれているのはアホでも分かる。顔だけが取り柄の俺の業だ。


 ……人間の魅力は顔じゃ無いと思うんだがその辺どうよ?


 基本的に無精でものぐさ。性格は捻くれて斜に構えた態度。勉強も運動もそこそこ。そんな人間に二人は一体どんな幻想を抱いているのだろうか? 怖くて聞けないが。ワンワンニャーニャーと彼女らの何時も毎度の舌戦弁論大会が繰り広げられ、結論、


「じゃああたしも!」


 そう言って朱美が俺の腕に抱きついてきた。鏡花とは反対の腕だ。これもいつも通りの展開である。うちの高校の名物である。顔だけ男こと鐵金也……つまり俺に寄り添う美少女二人。


 鐵鏡花と灼火朱美。


 二人とも不世出と云って云いすぎることの無い美少女性を持っているものだから憧れて惚れられて恋されてと大変だ。で、そんな二人を独占している男子がいるのだから、他の男子生徒には面白かろうはずも無い。ソレについては割愛。ここで思考を進めても面白い結果にはならない。


「ちょっと待ってください」


 ちょっと待ったコール。これは鏡花。


「兄さんの腕を洗濯板で削るのは止めてください」


「誰の胸が洗濯板よ!」


「兄さんが痛がっています」


 そこまで言わんでも……。


「金ちゃんは?」


「光栄だ」


 他にどう言えと?


「えへ……だから好きよ金ちゃん?」


「恐縮だ」


「そうだ。あたしに良い考えがある」


 大抵朱美がこう云うときはロクでもない。


「金ちゃん?」


「何でがしょ?」


「あたしのおっぱいを揉んで!」


 せめて理論立てて話せや。


「揉んで揉んで寝るまで揉んで!」


 酒と胸と男と女。


「そしたらおっぱい大きくなるよ? 金ちゃんも嬉しいでしょ?」


「別段胸に貴賤は無いがなぁ」


 要するに、


「お前のおっぱいはいらねぇよ」


 と言えれば良いのだが乙女心にナイフを刺すのも躊躇われる。


 ヘタレさな……俺は。


「馬鹿なこと言ってないで学校行くぞ」


 美少女二人を連れて学校へ。


「ところでこの豪邸は完成したの?」


 らしいぜ。


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