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第21話:乙女心の行く先は01


「こいつ髪が赤いぞ」


「目も赤いぞ」


「お化けだ」


「妖怪だ」


「気持ち悪いな」


「化け物の世界に帰れ」


 基本的に子どもは異端に敏感だ。特別である事は周囲に合わせられないことでもある。その上で俺の幼馴染みである灼火朱美は異端だった。


 赤い髪。


 赤い瞳。


 生まれた頃から一緒に育って、俺に懐いてきたワンコのような存在。小学校に入ると、先のようにはやし立てられ邪険にされる。泣く朱美を慰めるのは俺の役目だ。


「金ちゃん! 金ちゃん!」


「大丈夫だ。お前には俺がいる」


 この頃から既に俺は自己同一性が他の子どもに比べ安定していた。母親殺しの罪を自身に問うて十年弱。何故自分が生まれたのか。何故自分に天罰が下らないのか。何故誰もが俺の罪を責めないのか。そんなことばかり考え哲学にハマり……結果、捻くれた子どもとなった。ソレについては既に云っていたことでもあるが。


 対して一般的な小学生相応の朱美は自分の赤い髪と瞳に酷いコンプレックスを感じていた。


 隔世遺伝。


 そう呼ばれる現象だ。とはいえ黒髪黒眼の日本人社会では際立つこと請け合いだ。そのため虐められる。


 当然の帰結。


 以上。


「金ちゃん……」


 あるとき彼女は俺に問うたことがある。


「金ちゃんは何で離れていかないの?」


 彼女が虐められては……慰めるのが俺の役目だ。そんな俺の献身を疑問に思ったのだろう。聞く事こそ無粋だが、小学生に求める望みでもないはずだ。


「気持ちはわからんじゃないがな」


「そうなの?」


「基本、子どもは虐めて虐められて成長するもんだ。法律で虐めは罰せないから並みの犯罪よりタチは悪いが……それも業だろう」


「金ちゃんもあたしのことが嫌いなの?」


「んにゃ?」


「ふえ」


「嫌いならお前の味方なんてしないだろ」


「それは……そうだけど……」


 あう。


 そう縮こまる朱美だった。


「お前は可愛いな……」


 苦笑する俺。


「あたしが……可愛い……?」


「そこらの生徒とじゃ比肩出来ないほどにな」


「ひけん?」


「あぁっと……」


 つい言葉遣いを間違えてしまう。さすがに小学生に「比肩」は通じないだろう。


「要するにお前は他の女子に比べて圧倒的に可愛いってことだ」


「本当に?」


「真なる客観は存在しないから俺だけの世界で語るが……お前はとびっきりだよ。おそらく虐めてくる連中も嫌い嫌いも好きの内故の行動じゃないか? 虐めっ子が好きな子を虐めてしまうのは珍しい話じゃない」


「とびっきり……可愛い……」


 髪や瞳と同色になる彼女の頬。


 一丁前に照れてるらしい。


「それに俺は気に入ってるぞ? お前のことは……」


「ふえ」


「赤い髪も赤い瞳も綺麗だろ」


「そのせいで虐められてるのに?」


「異端である事は特別であることの逆説的証明だ」


「?」


「灼熱の赤い髪は揺れる炎のようで情熱的だ」


「ふえ」


「鮮烈な赤い瞳は煌めくルビーのようで蠱惑的だ」


「ふえ」


「どちらも一般人には得がたい才能だよ。灼火朱美。灼熱の髪と朱く美しい瞳。なるほど……これ以上にお前を体現する名前はないな」


「ふえ」


「だから自信を持て。少なくとも俺だけはお前の味方だ」


「信じて……いいの……?」


「裏切ったら報復しろよ。そのくらいは甘んじて受ける」


「ほうふく?」


「やられたらやりかえせってこと。それでトントンだろ?」


「金ちゃんを虐めたり出来ないよ……」


「知ってる。お前は優しいからな」


 俺は失笑した。


【失笑】:不謹慎に大笑いすること。


 哄笑は次第に小さくなって、最終的に俺はくっくと笑って収める。


「ま、これからも仲良くやろうぜ?」


 俺はクシャッと朱美の髪を撫でた。


「クリムゾンプリンセス様よ」


 皮肉のつもりだった。通じていないことは重々承知で。


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