第10話:母が訪ねて三千里10
「はい。部長」
書き上げた入部届を俺に差し出す。
俺は受け取って朱美に渡す。
「入部の処理をお願いする」
「承るよ金ちゃん」
サクリと朱美は言ってのけた。文芸サークルの事務処理担当は朱美である。尤も俺が無精なだけではあるも。
ともあれこれでフレイヤも文芸サークルの部員と相成る。
「これからよろしくな」
心にも無いことを俺は言う。
「だね。金也ちゃん」
彼女もニコッと笑った。
ヒマワリの様な笑顔だ。
泣き虫の鏡花やコンプレックスまみれの朱美とも違う他意無き笑顔。
それが俺の胸をついた。
「ところで」
こればっかりは聞かねばなるまい。
「俺とフレイヤは知り合いか?」
元々距離の取り方が近すぎる。
俺の警戒も当然だろう。
「結構強力な絆ではあるよね」
まったく気後れせずにフレイヤはそう述べた。
「知り合いか?」
「面と向かって話すのは今日が最初だよ?」
禅問答だな。
嘆息。
「で、なんで俺に付き纏う?」
「金也ちゃんが可愛いから」
これを無遠慮に言うからなぁ此奴は。
「知り合いではないんだろ?」
「強固な絆で繋がってるよ?」
だからそれが何だっつーの。
胡乱げな瞳で見やる俺に、
「いやん」
とフレイヤは恥ずかしがった。
何の反応だそれは?
「金也ちゃんは格好良い男の子になったよね」
「他に取り柄がないからな」
顔だけ男だ。
「そんな金也ちゃんだから良いのよ」
何がよ?
「親として喜ばしいってこと」
「はぁ?」
意味不明な言葉に疑暗しか浮かばない。
「ま、このタイミングが適切かな」
朱美の用意した紅茶を飲んで彼女は言を発する。
「私は金也ちゃんのお母さんなの」
…………。
沈黙せざるを得なかった。
それは鏡花もそうであろうし朱美もそうであろう。
フレイヤが俺の母親?
有りかそんなの?
「気持ちは分からないじゃないけどね」
彼女にしても、すぐに納得して貰う必要性は無いらしかった。
「とりあえずお向かいさんに引っ越し蕎麦を提供したいから今夜は我が家で夕餉をとって。詳しい話はそこで」
意味不明な言葉を並べ立てる。
お向かいさんって言うと……、
「あの和風豪邸は……」
「私の家だよ」
そういえば表札にはゴールドーンと書かれていたな。何故気づかなかったのだろう?




