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第1話:母が訪ねて三千里01

母親が出てくるまで少し間があります。

根気強く付き合ってくだされば幸い。


 俺ことくろがね金也きんやは生まれつき咎人だった。


 罪は殺人。


 母の命と引き替えに俺は産声を上げた。ので、実感そのものは無いが……自意識を確立してから俺は母の墓前に立つ度にやるせない気分になったものだ。意味が分からなかった。


 自分を産んでくれたことには感謝している。だが母自身の命とソレは等価なのか。


 ほとんど哲学じみた内容だが、俺にとってはアイデンティティの一欠片だ。死人に口は無いため永遠に解けない命題であることも理解はしているが、死して尚死者が何を思うのかは考えずに居られない。そのために俺の性格は捻くれた。


 まぁいいんだがな。







    *





「兄さん。起きてください」


 女子の声がした。まどろむ意識でそれだけは理解する。


「兄さん。起きてください」


 心の琴線に触れる鈴振るような声だ。その声を俺は知っている。


「兄さん?」


 声は俺を呼んだ。


「今日から新学期ですよ?」


 知ってる。


「何なら目覚めのキスを……」


「おはようございます」


 アホな言動のショックで目を覚ましてしまった。


「何でですかぁ……」


 鏡花は不満そうだ。


「兄にキスしようとする妹が何処にいるんだ……」


「ここにしっかりと」


「アホだな」


「愛しています」


「恐縮だ」


 うんざりと嘆息する。


 俺が対面しているのはくろがね鏡花きょうかと云う名の少女だ。


 日本人らしい黒い髪に黒い瞳の大和撫子。黒い髪はブラックシルクのように繊細で光沢があり、黒い瞳はブラックパールのように輝いている。なお顔のパーツが有り得ないほど整っており、絶世かつ不世出の美少女として存在する。


 うちの学校でも非公式のファンクラブがあるほどだ。


 ついでに俺の義妹。


 既に俺の出産において俺の母が亡くなったことは話した。そして俺の父は鏡花の母と再婚した。連れ子である俺と鏡花は再婚の日から義兄妹となる。


 で、何をとち狂ったか彼女は俺にベタ惚れ。


 口を開けば、


「兄さん兄さん」


 と俺に懐くことになった。


 起床におけるやりとりを見て貰えれば分かるだろう。外見は完璧な美貌を持ち尚モデル体型のプロポーションを獲得しているのに、内面は重度のブラコンである。


 正直な話、持て余しているが、今のところ心変わりの気配は無い。


 残念だ。


「兄さん?」


「何だ?」


 嫌な予感しかしねぇ。


「おはようのキスを」


 だよなぁ。


 これが鏡花である。俺は自分の唇に人差し指を当てると、その指を彼女の唇に当てる。いわゆる一つの間接キス。


「あは」


 と彼女は笑った。漆黒の瞳が喜悦の光を宿す。


 安いね。どうも……。


「では兄さん朝食にしましょう」


「ちなみに今日のメニューは?」


「白米とメカブとナメコの味噌汁です」


「ん」


 頷く。母親には頭が下がるな。基本ものぐさで不器用な俺には家事を回す義母が偉大なモノに見えた。


「その前に」


 鏡花が微笑む。


「まずは寝癖を直しましょう」


 そう云うことになった。


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