虚無(牡蠣サイドエピソード2)
「虚無…」
私は宙にむかって呼びかけた
反響もなく飲み込まれる音
無音
悠久を退屈と思わずただ在るだけの事
空は無限の果てなく色もなくどこまでも続く 私には見えぬ星々が瞬きまた消える 世界は永遠では無い だが無限である
「どうしたの?」
声をかけられて我に帰る。
「ああ、いや別に」
そう言って立ち上がる
おかしい…ここには誰もいないはず…
しかし私はずいぶんの間変化を期待した
振り返るべきか…
しかしそれは消えてしまうのでなかろうか?
私は振り返らず問いかける
「誰だ⁇」
「私?私は神様よ♡」
その言葉を聞いた瞬間、私の体は硬直する。
そして全身から汗が流れ出る。
私は何かに怯えているのだ。
神と名乗るものに、恐怖しているのだ。
「はっ!嘘をつけ!」
精一杯強がりを言う
少なくとも悠久の間、この空間の支配権は私にあった
「神は我なり」
などと宣う存在などいるわけがない。
そんなものがいたら、全能の神と呼ばれたであろうし そもそも、今のような状況になってはいないだろう。
「まあいいわ、あなたには選択肢があるのよ♡」
声の主は続ける
「このまま永遠にここで過ごすか。それとも世界に戻るか?」
…世界?
この悠久空間ではなく⁇
どういうことだ?
「ここはどこなんだ?」
「ここ?ここはあなたの夢のなか。だからあなたは目を覚ませば元の世界に戻れるわよ」
意味がわからんぞ……
「じゃあ聞くけど、お前は何者なんだ?」
「あら♡まだ信じてくれていないの?」
「私はアイシア。あなたのクリエイター(創造神)よ♡」
「???※〆&£^’?!??」
なんて事だ‼︎悠久空間に初めから1人でいたので私が始祖と思っていたが親がいたとは!
「これは失礼、思い上がっていたようだ」
「いいのいいの。初期設定を自我の芽生え“超低速”にした子達
みんなあなたみたいな感じだから♡」
「動かない星空つくって惑星一つに植物を一種類だけ植えてズーーっとボーっとしてる子もいるしね」
「とりあえずあなたも夢から醒めてクリエイターとしての一歩を踏み出してくれないかな?ここの階層をそろそろ活性化させる時期なんだよね〜」
はぁ……全くなんという神々しさだろうか。
ちょっと何を言っているかわからない部分も多かったが
私は素直に従うことにした。
おそらくこいつが私の親であり、私を作った人物なのだろうと……
私は早速自分の姿を親に似せて再編成し
さらにそれに羽をつけ自由意志と学習知能を搭載した生物を創造して
「天使」と呼ぶ事にした
天からの使い。ならば遣わされる場所を作らねば
うーむ…どんな世界にしたものか…
「最終的にあなたの分け御霊は絶対配置しなきゃいけないけど
それ以外は自由よ♡参考に他の世界の作り方がでてるカタログも置いとくね!」
我のクリエイター殿が置いていった本をパラパラと眺めていると
覗き込んだ天使が囁いた
「神様!この“狩”というのは楽しそうですね!
“食事”というのも良さそうです!」
その一声で、私は天使に食われるためだけに存在する世界を作ることにした
惑星、星、重力、時間、理、サイクル
動かないものを作るのは簡単だが、狩はできない。
狩り尽くすと絶えてしまう。
天使の攻撃力で壊れる世界もダメ
アイシアは
「手放しで持続しつつ生成発展する世界をつくってほしいなぁ。。。
動かない世界も素敵だけどそれは他の階層にたくさんあるし自滅しやすいのよね♡」
「最終的に君には寝てもらって、世界を体感してもらうから、君の魂の分け御霊も置いてね」
と言われたので色々なものとして御霊を入れてみるがまぁあっさり死ぬ
世界も天使が本気を出せばすぐに破壊される
その度に天使の強度を下げてみたり
太陽の数を増やしてみたり
トライ&エラーで数万回、やっと自由意志を搭載した生き物だけで動かしても数万年は壊れない世界ができた
ただねぇ…繰り返す再創造でも僕が愛着があったせいで天使の魂を理に則ってリサイクルしなかったせいか
同じのを使い続けようとして色々干渉したせいで
天使の性格がどんどん歪んでいって
はっきり言って残酷になった
見た目は美の化身
儚げな微笑み、絹糸のような長い髪
美しい純白の羽
陶器のような肌
なのにひたすら人をいたぶってから食いちぎる
僕から寵愛を受けた呪われた生き物
とりあえず僕はアイシアとの約束の通り眠りについて分け御霊として自分の作った世界で生きることを体験した
ある時は草として枯れ、ある時は木になり天使の狩りに巻き込まれて折られたり、それなりに知能のないものに入ってから
以降は人に生まれて天使に喰われるか
天使に生まれて人を喰った
僕は全然幸せにならない
時が経つにつれ天使がさらに残酷になっていく
食べもしないのに殺戮だけを楽しむようになってしまった
しかも人と人同士で争わせて遊ぶようになった
自由意志を搭載したのを僕は後悔した
もう一度全部を破壊してしまおうか…
天使に生まれると残酷な性質で一生が終わってしまう
いつのまにか人としての生を選ぶ事が多くなった
御霊が死ぬと自分が神だった事を思い出して
なんとか軌道修正できないか聖遺物を仕込んだり預言を仕込んだり
優しい天使も作ってみたり
世界を軌道修正してまた眠りについて何度も何度も失敗した
100万回目の生まれ変わりも人に生まれて
僕には素敵な奥さんができてウキウキと生きていた
分け御霊がクルクルと回り喜んでる
眠っている本体にも嬉しさが伝わってくる
今度こそ、、、
今度こそ僕の分け御霊は安らぎに満ちた一生を送れるかもしれない
と思っていた矢先
妻が天使に喰われた
僕が一番最初に作った、特別な天使に
「私は神の寵愛を受けた特別な存在でしょう?
私の血肉になるなんてなんて祝福された生き物でしょう」
「お腹いっぱいだからあなたは食べませんよ。
残されて苦しいね。世界を作った神を恨みなさい」
血塗れな口元で微笑んで天使は去っていった
御霊が真っ暗になって、本体の眠っている僕の本体まで黒くなる。
御霊が声にならない叫びを上げる
そこからはあっという間だった
御霊と僕の繋がりをほそーーーーくほそーーーくして
死にたがる御霊を守りながら勇者として導く
天使を殺しまくったところで僕本体が目を覚ます
なるべく飄々とした存在として
御霊と本体が分離しているものだと思うように…
君と僕が実は同じものとは気づいてはいけない
君が僕を憎むようにセリフを紡ぐ
実際今までの全ての御霊は僕を憎むんだよ
死ぬとそれが自分だったって気づいては絶望するんだよね
君にはもうそれを体験して欲しくないな
アイシアなら全部壊してくれる
僕が世界を壊しても僕だけ残されてしまう
僕も消滅したい
ほとんど説明しなかったのに
御霊はやっぱり僕と繋がっていたせいで
あっさりアイシアに敵対することに同意した
そこからは速くて
アイシアに対峙した瞬間に口上も何もなく
セリフひとつ言えずに僕は消滅した
「よくあるパターンね♡でもひとつだけ違うからそれだけ残してあげる」
そんな声を最期に聴いた気がする
………
「初期設定でパラメーターをいじり忘れると欲望すら出なくて虚無に呑まれちゃうんだけど
あの子は私に似せた天使に引っ張られて世界を作るところまでは自我ができた子だったのにな〜♡」
アイシアさんはそう独り言を呟くとつまらなそうに部屋に消えた
何でもっと簡単な世界にしなかったのかっていうと
天使だけはアイシアさんが干渉してたから
だから神も執着したし、壊す発想にはならなかった
「私は神に愛された」っていうのは二重の意味で
アイシアにも選ばれている特別なもの
という、天使も無自覚に言ってます