偽りの瞳
咲良は光属性だが、神楽と同じく二つの属性を持っている極めて珍しい魔導師だ。
咲良の属性は光属性と闇属性。
普段は瞳に色彩魔法を付与して生活している。世間一般、ヴィンズから見れば神の色と悪魔の色を持っているという認識。
敬うべき色と忌むべき色を同時に持っているという事実はヴィンズの信者を狂気的に動かす。それはある意味闇属性一つをもって産まれるよりやっかいだといつになく暗い顔をして言っていた。
おそらく神楽が知らない過去で何かがあったのだろう。
人目を避けてこんなところで仮の拠点を置くのもそのためだ。魔力コストを削減しているとはいえ、魔力量が少ない咲良にとって絶えず魔力を消費しなければいけないのは少なからず体に負担がかかる。
白銀色の偽りの瞳より、本来の濃紫のほうが咲良らしくて好きだ。
「戻したんだな」
「んー。神楽しかいないのに変える意味ないですからね~」
「たまに魔法解くの忘れてるからな」
「慣れすぎるとかけてること忘れちゃうんですよー」
「簡単に忘れられる程簡単な魔法ではないんだがな」
規格外に言っても無駄だと知りつつも、それが普通ではないと言っておく。なまじ何でもできるせいで『魔女』くらいにしかできない芸当を『上級魔導士』にもできると思っている節がある。
少しでもそのあたりの認識を正してほしい。
「ん。できた。咲良、食器」
「はいはーい。どれをご所望ですか?」
そうこう言ってるうちにすべての料理が出来上がる。咲良に必要な種類の食器を作ってもらい盛り付ける。
今日作ったのはほうれん草パスタにマッシュポテト、付け合わせのサラダとコンソメのスープだ。
「やーっとお昼御飯です! いただきます!」
「ああ。どうぞ、めしあがれ」
手を合わせていただきますの挨拶をする所は咲斗の教育のたまものなのだろうか。意外と咲良はおはようやおやすみの挨拶は欠かさない。
「やっぱり神楽のご飯は美味しいです! 今まで料理にさほどの興味は無かったけど咲斗の料理ばっかり食べてたからなんですね~」
「お前、それ咲斗に言うなよ? 何年たっても」
「大丈夫ですよ~。咲斗もこの料理を食べたら納得するはずです! むしろ共感するべきです。しなかったら正気を疑うレベルですよ」
「そこまで言うか?」
「そこまで言うんですー」
これは神楽を褒めているのか咲斗を貶しているのかどちらなのだろう。多分前者だ。前者だと思いたい。
何もしていないのに会ったことのない咲斗に妙な後ろめたさを感じる羽目になった。
「かーぐーらー」
「どうした」
「あの果物屋さんで買ってたの、ホットケーキに乗せるやつですか?」
「お前、食べてる最中に聞くか? そんなにホットケーキが好きか?」
「そんなに大好きです!」
今日一の笑顔だった。