双生の再開
二人の間に沈黙が落ちる。それは一年ぶりに会った兄妹との再会に気まずくなっているわけでも、歓喜に言葉が出ないわけでもない。険悪な沈黙だった。
咲良は掴まれた手を振り払うことも、作った笑顔を浮かべることもせずに咲斗を見つめている。咲斗もまた、掴んだ手を離すことなく、一年探し回った片割れを見つめていた。
そんな沈黙を先に破ったのは咲良の方だった。
「あらあら咲斗、どうしたんですか~。そーんなに怖いお顔をして~」
「……それを本気で言っているなら少しお灸をすえる必要がありそうだな」
「咲斗じゃ無理ですよ~。私に傷一つつけられません」
「いい加減にしろ、帰るぞ」
「嫌です。私は神楽と旅を続けます」
「ただの旅ならまだしも、お前の目的は俺の……」
「……や~っぱりわかってましたか。そうですよね、気づくって知ってました。何にも言ってないのに。こういう時の双子の直感は厄介ですね」
「誤魔化すなよ」
両者ともに一歩も引かず平行線の会話を続けていると、危機を脱した白羅が浮遊魔法で空に逃げた。
「あ、逃げられちゃいました。も~。咲斗が邪魔したせいですよ~」
「邪魔もする。お前が使おうとしたのは脳に後遺症が残る粗雑な魔法だ」
「さっすが咲斗! あの短時間で複雑な式を読み解いたんですね~」
「あの程度、見抜けないはずないだろう」
何の感慨もなく言っているが、咲斗のその能力は凄まじいものだ。普通百を超える魔法式を読み解くのに下級の『魔女』ですら一時間を要することがある。と言えばその特異性はわかるだろうか。
咲斗はさらに魔力や式の癖なども見抜き魔法の駆使者を特定することも、それを模範することもできる。魔法を解析し、それを自分の力として蓄積する。それが咲斗の二つ名〝明晰開花〟の由来だ。
咲斗は苛立ちを表すように舌打ちを一つ残すと、咲良の手を離して上空に逃げた白羅と、神楽の方を見た。
「で、あれはなんだ」
「なんだって、見たままですよ~。神楽が〝緑園の狂姫〟と遊んでいます」
「ああ、聞き方を変えてやろう。どういう状況だ」
「も~。仕方ないですね~。ヴィンズの教皇のお嫁さんと『魔女』が襲撃してきたんです。目的は不明ですが多分瑠伽が関係していますね」
「瑠伽?」
「神楽が守ってる子ですよ~」
「……ああ、闇属性の子供か。わざわざ幹部クラスが出てくるなんて、重要人物か?」
「それを調べようとしてたんですよ」
まあ、他に知りたいことがあったことが魔法を使おうとした原因ではあるが。
「にしても、教皇の妃なんぞが何故ここに」
「それも調べようとしてたんですよ!」
「消そうとしていたの間違いじゃないだろうな」
「ころころしちゃったときはやむなしと思ってましたが。そのあたりは一応調整してましたよ~」
「そもそも使うな大馬鹿娘」
「私は天才だし妹ですよ~」
「はぁ……」
咲斗は頭を抱えていたが、咲良は聞こえないふりをした。
一年会っていなくても、双子の関係性は依然と変わらない形でそこに会った。
良くも、悪くも。




