白の仔ら-⑤ アウフィとシュッテ
「マントひらひら~」「マントふわふわ~」
「メヘヘェ~」
双子とヤグーの再起動は早かった。
物おじしない性格らしく、マリエラのマントの裾に潜り込んで、ジークの機嫌を伺っている。ヤグーに至っては何事もなかったように、再び草を食べ始めている。
「この子たち、白い動物っていうのと関係ある……よね?」
マリエラたちが風の通り道と呼ぶこの場所に現れるという2頭の真っ白い獣の噂。
同じ場所に現れた真っ白い双子。人間だから関係ないと考えるのは早計だろう。
「どうぶつー」
アウフィが握ったマントに体を巻き込むように体をねじって、マリエラの方を見る。
「どうぶつー」
シュッテも握ったマントに体を巻き込むよう体をねじって、ジークの方を見る。
「「どうぶつー」」
アウフィとシュッテが声を合わせてヤグーを指さし、草を食んでいたヤグーが返事をするように「メヘェ」と鳴く。
「ちょっと、二人とも重い」
幼児とはいえ二人もマントにぶら下がるように絡まれると、さすがに重い。
「関係あるだろうな」
見かねたジークがアウフィとシュッテを抱き上げるようにしてマリエラのマントから離すと、「かまってもらえた!」とばかりに双子が顔を輝かせた。
「うふふ、シュッテは白いどうぶつさん」「うふふ、アウフィも白いどうぶつさん」
再びマリエラの足元をちょろちょろし始める双子。二人の動きに合わせてマリエラのマントの裾がひらひらと揺れる。
「えいっ、ばふー」「えいっ、ぶわー」
「わあ!」
いきなり双子がマリエラのマントをばっとめくった。
示し合わせたかのように同じタイミングでめくられたマリエラのマントは、突風にあおられたようにまくれあがってマリエラの頭にかぶさった。
なんといういたずらっ子か。
「おこっちゃやーなの」「ごめんなさいなの」
予想もつかない双子の動きに一瞬眼光を鋭くしたジークにまずいと思ったのか、二人の子供は身を寄せ合ってしおしおとうなだれ、マリエラの両足に左右からしがみつく。
マリエラの陰に隠れれば安全だと、学習してしまったらしい。
反省しているのかと思いきや、すぐにマリエラのキュロットの裾を掴んでは、
「むー。ズボンー」「むー。めくれないー」
なんて言い出すから、油断も隙もあったもんじゃない。
この双子、マントだけでは飽き足らず、スカートまでめくるつもりだったのか。
迷宮都市で買い換えたマリエラの服はキュロットだから、スカート捲りはできなくて助かった。
「いたずらはその辺にしておけ」
ジークが、マリエラのマントを直したあと、またちょろちょろしだした双子の襟首を捕まえると、双子は途端におとなしくなる。
「じー」「じー」
ジークをガン見する双子。確かに危険はないかもしれない。ジークは小さくため息を吐くと、双子に質問する。
「お前らどこから来た?」
「アウフィはね、こっちから来たのー」「シュッテはね、あっちへ行くのー」
アウフィが魔の森の方角を差し、シュッテが山の方を指さした。魔の森から山へ向かうということだろう。山の方には山岳民族の住む集落もあると聞くが、そこにゆかりの子供だろうか。
「二人でか? 親……大人はいないのか」
「シュッテといっしょ。ねー、シュッテ」「アウフィといっしょ。ねー、アウフィ」
こうしてしばらく話していても、二人の保護者らしき大人は現れない。本当に、二人で山へ行く気なのだろう。
(どうしよう……)
ジークに構ってもらえてニコニコ嬉しそうな双子を見た後、マリエラは茜のさし始めた空を見上げた。
もう、じきに夕刻だ。
こんな場所で出会った双子がただの子供とは思えないが、それでも森の中に置いていくのはまずいのではなかろうか。
「ねぇ二人とも、お姉ちゃんの家があっちの迷宮都市にあるんだけど、今日は泊っていかない?」
そう言って、マリエラは双子に手を差し出す。手を繋ごうをするように。
マリエラの提案に双子は揃って小首をかしげ、マリエラとジークの周りをくるくる回る。
「小さな葉っぱのにおいがするね」「おいしいお水のにおいがするね」
「こずえを揺らしてあそぼうか」「はっぱを巻き上げあそぼうよ」
そういうと双子は差し出されたマリエラの手をとった。
「うん、じゃあ行こうか」
二人の言動を了承と取ったマリエラが声をかけると、二人はマリエラたちを追い抜いたり戻ってきたり、ヤグーの毛皮に埋もれてみたりと、相変わらずちょこまかしながら、進路を迷宮都市へと変えた。
「マリエラ、いいのか?」
面倒ごとは目に見えているとジークが問いかける。
「うーん、悪い子たちじゃないと思うよ。それに、なんとなくなんだけど、ちょっと休ませないと、あの子たち目的地にたどり着けない気がするんだよね」
根拠のない思い付きだが、双子に手を差し伸べたいと、そう感じられたのだ。
「おそいよぅ」「おいてくよぅ」
少し先を走っていた白い双子が駆けてくる。
「えいっ、ばふー」「えいっ、ぶわー」
「わあっ」
そしてマリエラのマントを再び激しくまくり上げ、マリエラの頭にかぶせる。
「こらーっ! 前言撤回、悪い子だ。次やったら怒るからね!」
「きゃーっ」「きゃーっ」
マリエラがぐっと拳に力をいれ、表情で威嚇すると、双子はとても楽しそうに笑って、マリエラとジークの周りを駆け回っていた。