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IF:迷宮都市にワクチン接種があったら。★

(腕、痛い。あがんない……)

 マリエラは、とっておきのお菓子を隠した戸棚の前で立ち尽くしていた。


 ワクチン接種とやらをした腕が、痛くてどうにも上がらないのだ。

 錬金術師であるマリエラとは言え、未知の病は恐ろしいものだ。ポーションがあると言っても、全く新しい病気の場合は完璧に効く保証はない。治療薬の開発に似た手順が必要になってくる。


 迷宮都市に錬金術師がマリエラ一人しかいない現状においては、マリエラもワクチンを接種してリスクを下げるに越したことはない。


 とかいう、“あるべき論”などマリエラにはどこ吹く風で、ワクチン接種第一陣に運がいいのか忖度なのか見事選ばれたマリエラは、ラッキーだと喜び素直に受けて、その翌日に“腕上がんない病”に見事かかってしまったのだ。

 流行りに乗れたみたいで、ちょっぴり嬉しくはあるのだが……。


(困った。お菓子とれない……。ん!?)


 ひらめいた!

 お菓子が取れないというこの状況に、マリエラは見事ひらめいてしまった。


(ジークとリンクスの接種日は明日だよね! ってことは……フフフ)


 ひらめいてしまったマリエラは、痛む腕も構わずに、ジークやリンクスが好みそうな甘さ控えめチーズたっぷりのタルトをせっせと作り始めた。




 そして、ジークとリンクスの接種日翌日。


「ねぇねぇねぇ、ジーク。腕、痛い? 痛い? 上がらない?」


 ワクテカしながらジークに尋ねるマリエラ。

 自分があれだけ痛かったのだ。ジークだって痛くて腕が上がらないに違いない。

 そう信じ込んでいたのだけれど。


「少し違和感があるが、あがるぞ?」


 なんとジークは、しゅぱーんと腕をまっすぐ上げるではないか。しかもなかなかにキレの良い動きで。

 そういえば、ジークは今朝も変わらず定例の訓練を行っていた。

 人によって副反応に差があるとは聞いていたけれど、ここまで痛みが軽いとは。


「……そっかぁ」


 垂直に上げられたジークの手とは反対に、マリエラのテンションがみるみる下がる。


「……マリエラ? えーと、その包みは?」


 マリエラが後ろに隠した包みをチラ見しながらジークが尋ねる。マリエラが何かをせっせとこしらえていたのは察していたし、こそこそ隠していたから、接種のご褒美にサプライズプレゼントでも用意してくれているのだろうと思っていたのだが、違っただろうか。


「あー、これ? えーと、接種記念にチーズタルト作ったんだけど……」

 明後日の方向を向いてちょっぴり口をとがらせながら答えるマリエラ。ここまではジークの予想通りだけれど。


「手が上がらないと思って、高いところから、渡そうと思ってたんだよね」


 はい、どうぞー。

 と、バンザイの姿勢でタルトの包みを渡すマリエラ。

 なるほど、悪戯込みのサプライズだったらしい。


 はい、どうもー。

 ジークも恭しく、バンザイの姿勢で受け取ってしまう。

 マリエラとしては、「いてて」とか言って欲しかったらしい。痛いふりでもした方がよかったろうか。失敗だ。マリエラの口は尖ったままだ。

 ジークがそんなことを考えていた時、リンクスがふらりと『木漏れ日』にやってきた。


「痛てて、腕いってー。ジーク、これ、ヤバくね? マリエラのこと笑えねーじゃん。オレ今襲われたらやべーかも!」


 痛い人、キター!

 理想的な反応を示すリンクスの訪れに、マリエラは喜色満面になる。


  挿絵(By みてみん)©小原彩


「だよね、だよね。痛いよね。痛いリンクスには、ハイ! ご褒美のチーズタルトですー!」


 マリエラは大喜びだ。さすがはリンクス。最高だ。そんな貴方にはスペシャルなプレゼントだと、マリエラはタルトの包みを抱えて走り寄った。


 はい、どうぞー!

 これぞ、待ち望んだ瞬間、とばかりにマリエラがタルトの包みをバンザイのポーズでリンクスの眼前へと掲げる。


「お、おぉ!?」


 何事だろうと戸惑うリンクスと、リンクスの「いてて」のセリフを今か今かと待ち望むマリエラ。

 マリエラは希望に満ちた表情だ。

 プレゼントを渡す側なのに、まるでマリエラが貰うようだ。


 だがしかし。


「ありがとな?」


 リンクスは、痛む左腕を下げたまま、マリエラの差し出したタルトの包みを、何事もなく()()()受け取った。


「あっ……」

「あっ……」

「えっ?」


 先にお茶のカップでも渡しておけばよかったとマリエラが気付くのは、このすぐ後のことだった。




「ジーク! ジーク! 手を上げて!!」


  挿絵(By みてみん)©小原彩


 ひらひら。

 学ぶ男、ジークが控えめに手を上げる。演技は得意な方ではないが、マリエラに喜色満面で「痛くなってきた!?」と聞かれたなら、痛いふりでもして見せる所存である。

 だがしかし。


「もっと、しっかり! さっきみたいに! 両手で!」

 一体どうしたことだろう。さっきとは打って変わって、マリエラが両手を上げろとせかすではないか。


「はい! せーのでバンザイだよ? いくよ、せーのっ! ばんざーい!!」

「ばんざーい?」


「輪環の魔法薬」コミックス1巻重版かかりましたー!!

 10月1日(金)(数日遅れる可能性あり)頃から書店に並ぶみたいですよ。

 ばんざーい!


 あ、明日も更新あります。

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3月1日コミカライズ「輪環の魔法薬」発売です! よろしくお願いいたします。
■□■

小説全6巻、第1段コミカライズ全2巻、第2段コミカライズ「~輪環の魔法薬~」発売中です!
― 新着の感想 ―
[良い点] ばんざーい!重版おめでとーございますー!٩(◜ᴗ◝ )۶ ワクチン、確かにイダダダってなって腕あがんなくなりますよね…… そしてなぜ人は取っておきのお菓子を高いところとかに仕舞いがちなの…
[一言] 昨日ワクチン接種したので、副反応真っ只中に読みました(*´ω`*) 辛いですが、マリエラ達とお揃いになった気分で何だか嬉しいです。(笑)更新楽しみにしてます!先生もお体お気をつけてくださいね…
[良い点] 祝☆重版! あとがきまでSSでおや?っと思えばwww [一言] 二日くらい筋肉痛みたいに痛かったですね
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