白の仔ら-⑨ ぷるぷるデザート
のっしのっし。
「きゃー、シュッテ、裏庭行きたいー」
「きゃー、アウフィ、階段上ってほしー」
両足にシュッテとアウフィをくっつけたジークは、双子が落ちないように気をつけながら、のっしのっしと『木漏れ日』の店内を離れた。
マリエラが「家出すると、みんな都会に行くんだね」なんて言うものだから、ちょっぴり居心地が悪くなったのだ。
マリエラに悪気がないのは分かっているし、普段であれば護衛の仕事があるからこれくらいでマリエラの側を離れたりはしないのだけれど、今はエルメラがマリエラの側にいる。
自分よりもよほど格上のAランク冒険者。自分が側にいるよりよほど安全だ。
そんなことを考えてしまう卑屈な自分に、嫌気がさす。
「じー」「じー」
うつむいてしまった足元には、自分の足にしがみつき、こちらをまっすぐ見上げる双子の視線が合った。
親猿にくっつく子ザルのようにジークの脚にガッツリしがみついたまま、こちらをガン見している。
「シュッテはね、今のジークがちょっと好き」
「アウフィはね、明日のジークがもっと好き」
なんだろう。慰められているのだろうか。それにしても、全力で絡んでくるわりには評価が低い気がするのだけれど。
とりあえず、頭をわしゃわしゃなでてやると、双子は顔を見合わせて嬉しそうにくすくす笑った後、口をそろえてこう言った。
「「おやつくれたらすごく好き!」」
「…………」
なんて気まま勝手な生き物だろう。マリエラが随分ちゃんとしたお姉さんに思えてしまうじゃないか、恐ろしい。
それでも、こんな子供の前で、気まずさに逃げ出すような無様はさらせないなとジークは思った。
「たまには、いいか。確か、地下にスモモのシロップ漬けがあったな……」
焼き菓子のような複雑なものは作れないが、ゼラチンで固めるだけの簡単な物ならジークも作れる。
あれを作れば、マリエラは大いに笑ってくれるだろう。他愛のないことだけれども、そういう他愛のなさに、自分は助けられてきたのだ。
のっしのっしと、双子をくっつけたままジークは材料を地下に取りに行くと、双子と一緒に簡単なデザートをこしらえ、冷蔵の魔道具にこっそりしまう。
エルメラとの会話に夢中なマリエラには気付かれていないようだ。夕食の頃には固まっているだろう。
「うわぁ、そっくり! あの時はびっくりしたよねー」
そういって笑うマリエラを思い浮かべてジークはほくそ笑み、分量外のスモモのシロップ漬けを盗み食いした双子も、口の周りをシロップでベッタベタにしながら満面の笑みを浮かべていた。