冒涜的な召喚(3章後編)★
活動報告にあげていた紹介(?)SSが恒例化してきたので、専用ページ作りました。
コミカライズのカット使ってるし、活動報告はともかくこっちはあかんやろ……。と思いつつ、聞いてみたらサクっとOKでたですよ。
薄暗い部屋の中で、マリエラが何やら書き物をしていた。
「こんなに薄暗い部屋で、眼を悪くするぞ」
「あ、ジーク。明かりを持ってきてくれたんだね。ありがとう。でも、この魔法陣は、薄闇の中で闇を紡ぎながら描かないといけないの」
薄暗い部屋の中、机に置かれた羊皮紙が微かな光を放っている。それとは対照的に描きかけの模様はどこか禍々しく、黒いインクは僅かな月明かりまで吸い込んでしまいそうだ。
「なんの……魔法陣なんだ?」
マリエラがいくつもの魔法陣を描けることは知っていた。
ジークの前で使って見せたそれらは、気配を消すものだったり、森の中を容易に移動できるものだったり、ポーション瓶に刻まれるポーションの保存を可能とするものだったりと、“完璧な形状に描ける”という異常性をのぞけば、世にありふれたものばかりだ。
けれど、マリエラを魔の森の氾濫から生き残らせた仮死の魔法陣のような特殊極まるものさえも描けることをジークは知っている。
マリエラの知識は、本人が思っている以上に希少で、慎重に扱わねばならない物も多い。
先ほどマリエラは「闇を紡ぎながら描く」と言っていた。
この魔法陣も、おそらくマリエラが思っている以上に厄介な代物に違いない。これは詳細を聞きださなければいけないだろう。
「んー、いざって時用のお守り的な?」
「お守り? どういう効果があるんだ?」
そんな生易しいものを、“闇を紡いで”描くだろうか。
絶対にない。
そう思ったジークが詳細を促す。
「えぇと、混乱とかしてもらって、その間に逃げれるみたいな」
「どうやって混乱を与えるんだ? マリエラまでパニックになるんじゃないのか」
「それは大丈夫。召喚主は見分けてくれるから」
「……召喚? 人に混乱を与えるモノを?」
マリエラの口からさらりととんでもない単語が飛び出した。
召喚。
マリエラが強い火力を使う時に呼び出すサラマンダーがそれにあたるが、彼ら精霊はそれぞれが司る事象を強化し、召喚主の仕事を手伝っているにすぎない。だから、攻撃魔法の使えないマリエラが上位の炎の精霊であるサラマンダーを召喚したとして、炎で攻撃などできないし、魔物相手には相も変わらず逃げの一手だ。
そのマリエラが、人を混乱させる何者かをこの魔法陣で召喚するという。
「大丈夫なのか? 危険なものを呼び出すんじゃないのか? それに、とてつもない魔力がいるんじゃないか」
ジークの不安はもっともだ。どれも常識的な内容で、心配されていることを理解したマリエラは、ジークを安心させようとにこりと笑って説明を始める。
「あ、そこは大丈夫。これでも簡易版だから。魔力もね、捧げものをするからそんなにいらないの」
「ささげもの……」
完全にアウトなやつじゃないか。
マリエラの説明に、ジークの不安は深まるばかりだ。
「うん。ジークと二人分だからね、二振りの剣を捧げるよ」
「……剣。剣か。生き物とか、い……生贄とかじゃなくて?」
剣。無機物ならセーフだろう。たぶん、おそらく、きっと。
生贄でないなら問題ない。それでも念には念を押すジークにマリエラが言い淀む。
「あ、どうかな……。生贄、になるのかな?」
「剣、なんだろう?」
剣と言ってくれ……!!
ジークの心の声が聞こえたのか、無言の圧力に屈したのか。
マリエラが渋々といった様子で、机上の箱から二つの塊を取り出した。
「クラー剣」
「はい?」
「……だから、クラー剣! 呼び出す呪文はね――」
いあ! いあ! はすたあ!