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私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~  作者: 阿弥陀乃トンマージ
第一章 JK将軍誕生

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てんやわんやのリハーサル

「赤鬼ってなんだよ……」

「この『新訳 桃太郎』に出てくる役だよ!」

 葵が満面の笑みで答える。

「桃太郎~?」

「おっと、ただの桃太郎と侮るなかれ! これは現代風の解釈を加えて大胆にアレンジした更にオリジナル要素もふんだんに盛り込んだ斬新なものなんだよ!」

「……それってほとんど別物じゃねえのか」

「まあ、まだ私もちゃんと読んでいないんだけど」

「アホらし、帰る」

「ま、待った! ちょっと待ってよ!」

 葵が飛虎に駆け寄り、その両手を取る。

「この役を演じることは貴方にとっても大きなチャンスになるんだよ!」

「チャンス?」

「そうだよ! 貴方のキャリアを見させて貰ったんだけど、まだ舞台でのお芝居というのは未経験なんだよね?」

「……スケジュール諸々の都合でな、舞台にはまだ立ったことは無い」

「うん、良いじゃない!」

「何がだよ」

「初舞台が歌舞伎座なんて、そうそうあることじゃないよ! 貴方の今後の芸能生活においてもターニングポイントになること間違いなしだよ!」

「……汚点になるの間違いじゃねえのか?」

 飛虎は葵の手を振り払って出て行こうとした。

「……じゃあ条件を付けるよ」

「条件?」

 飛虎が振り返って尋ねる。

「この舞台が不成功に終わったら、私は選挙から降りる。貴方の応援にまわるよ」

「⁉」

「葵様⁉」

「ちょ、ちょっと若下野さん⁉」

 葵の突然の提案に爽たちも驚いた。飛虎があごに手をやりながら尋ねる。

「成功不成功は何を以って判断するんだよ……?」

「舞台終了後にアンケートを取る。これは例えばだけど、『今の芝居に満足しましたか?』みたいな質問をするの。そこで『満足した』という回答が80%以上だったら成功。80%未満だったら不成功。……っていうのはどうかな?」

 飛虎はしばらく黙っていたが、やがてニヤりと笑って答えた。

「面白れぇ……分かった、その勝負乗ったぜ」

「じゃあ、赤鬼やってくれるのね?」

「良いぜ、やってやるよ」

「涼紫さんも良いかな?」

「え、ええ、上様のお考えに従います」 

獅源はやや戸惑いながらも了承した。

「決まりだね、じゃあこれが台本。明日から練習を始めるからよろしくね」

「……分かった」

翌日から、学園の多目的教室を利用してのリハーサルが始まった。

「お爺さんはパチンコに、お婆さんはネトゲのオフ会に行きました……」

「ちょ、ちょっと待って下さる⁉」

 お婆さん役の小霧が声を上げる。獅源が不思議そうに尋ねる。

「どうかなさいました?」

「川へ洗濯に行かなくて良いんですの? 桃は⁉」

「お爺さんがパチンコの景品でゲットします」

「なんですのそれ⁉」

「なんですのって……」

「現代的解釈ですよ」

「……何で伊達仁さんまで納得しているんですのよ……」

 小霧は頭を抱えた。光太が手を挙げる。

「私も一つ宜しいですか? 台本には『巧妙な話術できび団子を売りつける(アドリブ)』と書かれているのですが、どう演じれば良いのですか?」

 獅源が試しに演じてみせる。

「うーん、例えば……『ちょっと、そこの桃の髪飾りがイケてるお兄さん! ヤバい団子あるんだけど、見てかない?』って感じでしょうか?」

「……一応、参考にさせて頂きます……」

 光太が退き下がった。今度は弾七が手を挙げる。

「ちょっと良いか? 『きび団子を巡って犬・猿・雉がラップバトル』ってなんだよ! 一晩経っても意味分かんねえよ!」

「それは終盤への重要な伏線になります」

 獅源の代わりに爽が答える。

「ラップバトルが伏線に⁉ 斬新過ぎるだろそれ!」

 座っていた北斗が手を挙げて質問する。

「あのさ~ぶっちゃけ俺らあんまり出番無いから、空いた時間は舞台袖からライブ配信しても良いかな?」

「あ、兄上! 今はお芝居の内容について質問する時間ですよ!」

 やんややんやと騒ぐ皆を目を細めて眺める獅源に葵が声を掛ける。

「ふふっ、なんだか面白い舞台になりそうだね」

「ええ、そうでございますね」

「いや、どこがだよ! 不安要素しか無えぞ!」

 二人の近くに座っていた飛虎がたまらず声を荒げる。

「でも、各々の台詞の分量は少ないし、個々が覚えることは少ないから、案外大丈夫なんじゃないかな?」

「何でそんな楽天的なんだよ……」

 葵は隣に立つ獅源を指し示す。

「だって、歌舞伎界若手屈指の役者さんがついてくれているし!」

「……ええ、きっと素晴らしい舞台にしてみせます」

「……ふん」

 飛虎は獅源を一瞥し、その場を去ろうとした。

「どこ行くの?」

「トイレだよ……」

「……」

 獅源はそんな飛虎の背中を黙って見つめていた。その後もリハーサルは色々とあったものの、概ね順調に進み、いよいよ本番の日を迎えた。

お読み頂いてありがとうございます。

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