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私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~  作者: 阿弥陀乃トンマージ
第一章 JK将軍誕生

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尋ね人は二階に

「ここ1年程でしょうか……全く新作を発表されていないんです」

 葵の問いに川村が肩を落としながら答える。爽が尋ねる。

「こう言ってはなんですが……何か不都合なことが? 部に所属しているとはいえ、描く、描かないは個人の自由の範囲内かと思うのですが?」

「勝手な言い分と言えばそれまでなんですが……」

 川村は躊躇いつつも、言葉を続ける。

「橙谷さんも美術部員の一人である以上、部長の僕にも様々なプレッシャーがかかってくるんです! 部内の雰囲気が悪いから新作が描けないんじゃないかとか、彼の才能に皆で嫉妬して、新作発表の妨害を行っているんじゃないかとか……もう目茶苦茶好き勝手に言われて……ほとほと参っているんです。彼、実質幽霊部員なのに……」

「内情も碌に知らずに、外野は好き勝手言うものですわね」

「希代の天才浮世絵師ともなれば、周囲の注目度も自ずと高くなるものでしょう」

「彼の類まれなる才能については勿論誰もが一目置いています。それは重々理解しているつもりです! しかし、これ以上僕自身や、他の部員の活動の妨げになるのは甚だ迷惑なんです。静かで集中した美術部ライフを送りたいんです! その為に!」

「……その為に?」

テンションの上がった川村に対し、恐る恐る葵が尋ねる。川村はテンションを保ったまま答えた。

「橙谷さんに新作を描いてもらうこと! それが唯一の解決策であると思いますが、如何でしょうか?」

やや川村の落ち着きが戻ったところで、改めて話し合いを続けた。

「まあ、その橙谷さんに会ってみようか」

「そうなりますわね」

「学校にはもう居ないようですね。どこか行きそうな場所はご存知ですか?」

「学園の北東にあるこの茶屋にはよく出入りしているようです」

 爽の指し示した地図の一点を川村が指差した。

「どうもありがとう。それじゃあ行ってみようか」

「あ、あの……女性だけで行かれるんですか?」

「? ええ、そのつもりですが」

「そ、そうですか、ではお気をつけて……」

「穏やかな話じゃないようですわね?」

 口籠ってしまった川村を尻目に、葵たちは美術室を後にした。

「何やら気になりますわね、女だけだと何か問題があるのでしょうか?」

「何も取って食われるってわけじゃないだろうし……兎に角行ってみようよ」

「まあ、保険は掛けておくに越したことはないでしょう……」

「何ブツブツ言っているのサワっち? 置いていくよ?」

「ええ、すみません。今参ります」

 十数分後、三人は問題の茶屋にたどり着いた。古民家を改造したような造りで、純和風の茶屋である。建物は二階建てである。二階から何やら嬌声が聞こえてくる。

「三名で」

 階段近くの席に通された葵たちだが、より二階からの騒ぎ声が耳に入ってくる。怪訝な様子を見せる葵たちを見て、応対した店員がややバツの悪そうな顔をみせる。

「すみません、少し上のお客様が盛り上がっていらっしゃるようで……」

「これが少し? 下の階にまで響いてきていますわ。貴女注意なさったら?」

「い、いや、私からはちょっと……」

 小霧の指摘に店員が困った表情を浮かべる。爽が助け舟を出す。

「注意するのは憚られる……余程のお得意様なのですか?」

「そ、そうなんです! ですからご容赦お願いします、すみません……」

 しかし、二階の盛り上がりは一向に治まりそうにもない。

「容赦というにも限度というものが……」

「まあまあ、さぎりん、店員さんも困っているし……」

「例えばここが居酒屋などであれば、わたくしも何も言いませんわ。でも、ここは茶屋なのでしょう? 雰囲気というものも大切になってくるでしょう?」

「白玉あんみつと抹茶ラテをお願いします」

「伊達仁さん……」

「まあ、腹が減っては何とやらです。とりあえずスイーツを楽しみましょう」

 マイペースな爽の空気に流されて、葵たちも一応注文を済ませた。疲れてきたのか、二階の騒ぎも些かではあるが落ち着いてきた。小霧も怒りの矛を一旦収め、素直に食事を楽しむこととした。食事もひと段落ついた頃になると、また二階が騒がしくなってきた。

「また……! ちょっとわたくしが注意してきますわ!」

「ちょっとお待ち下さい。高島津さん」

 食事中から何やら操作していた端末を確認しながら、爽が小霧を制止する。

「何を待つのですか⁉」

「さっきの店員さんに確認したいことがあります。……すみません、宜しいですか?」

 爽が先程の店員を席に呼び出した。

「如何しましたでしょうか?」

「二階のお客さんにご挨拶したいのですが」

「い、いや、それはちょっと……」

「ご心配なく。別に揉め事を起こそうという訳ではありません。ただ、我々は元々二階のこの方に用事があって尋ねてきたのです」

 そう言って、爽が端末を店員に見せる。そこに映った画像を見て、葵たちも驚く。

「この人……!」

「橙谷弾七! もう来ていたんですの⁉」

 葵たちは再び二階に耳を澄ませる。すると、複数の女の嬌声に混じって、男の話す声も聴こえてきた。

「あ、男の人の声もする!」

「気付いていらしたのね……」

お読み頂いてありがとうございます。

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