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竜の女王  作者: M.D
2170年夏
98/688

05

「海水浴とか花火大会は久しぶりだったし、いろいろあったけど、旅行は楽しかったね。」

「肯定。でも、疲れた。。。百合子さんとエレナ様が一緒にいる時点で、事件が起きるのは必然だったから。」


(いや、ワレは今回は何もしておらんかったのじゃが。)


 鎌倉旅行から帰ってきた翌日、僕達は僕の実家に向かう電車の中にいる。


「樹君は大変だったね。お疲れ様。実家に着いたら、ゆっくり休憩できると思うよ。」

「家では母さんと椿に高校や美姫さんのことをあれやこれや聞かれてゆっくりなんかできない気がする。」

「樹君はひさぎさん、椿つばきちゃんと3人兄弟で、楸さんは結婚して家を出てたんだっけ?」

「肯定。前にも言ったと思うけど、自分ががひいらぎっていう名前だから、母さんが面白がって子供に木偏で一文字の名前をつけたんだ。子供がなんて言われるか考えて名前を付けてほしかった。」

「印象に残っていい名前だと私は思うよ。椿ちゃんは今何年生?」

「小学5年生。うるさいし、鬱陶しいだけだよ。」

「そう?私は一人っ子だから、姉妹がいるのは羨ましい。」

「隣の庭は何とか、か。美姫さんは、いたとしたら年上と年下のどちらがよかった?」

「私は妹がいいかな。百合子さんみたいな姉は嫌だもの。」

「ハハハ。同感。」


 東京シールドの外縁で電車を乗り換える。


「長いトンネルを抜けると、そこは長いエスカレータ―だった。」

「ふふふ。一昨日も同じことを言ってなかった?」

「東京シールドを超えるために地下から地上まで長いエスカレータ―に乗らないといけないし、さらに手荷物検査もあるから毎回面倒臭いと思わない?」

「私もそれには同意見だけれど、魔法技術が流出するのを防ぐためには必要なことなんだと思うしかないよね。それに、私たちは学生証が通行証を兼ねてるから、普通の人よりは手荷物検査での面倒は少ないからマシだし。」

「それはそうなんだけど。東京シールドの外から内へ通勤している人は毎日一苦労だろうな。」

「そうね。仕方ないことだとは思うけれど。」


 手荷物検査を終えて地上に出ると、そこはもう東京シールドの外側だ。


「海側と同じように広々としたプラットホームね。」

「こっちも悪魔が襲ってきたときのために、避難してくる人を乗せた電車が何両も停車できるようになっているんだ。4年に1回、大規模な避難訓練をするときに体験するけど、凄い人の量だから。」

「私はそういった避難訓練はしたことがないから分からないけれど、樹君の話を聞くと拘束時間は長そうね。」

「肯定。その日は、丸一日訓練。避難訓練なんかしたくないけど、鉄道公社が緊急時に適切な運用ができるようにすることが主目的とされているから、参加人数は多いほうがいいらしい。だから、避難訓練は学校行事になっていて、ずる休みすると罰として長距離走をしないといけないから、毎回仕方なく参加しているだ。」

「東京シールドの外に住むのも大変ね。」

「人が多すぎて東京シールドの内側には住めない人がでてくるのは致し方ないけれど、悪魔が襲ってきたときのために避難所とか作ってくれているし、東京シールド外に住む人も見捨てない、という政府の方針は素晴らしいと思う。」


「避難所ってどんなところ?」

「狭苦しいけど、一応生活はできる感じかな。一部は宿泊施設として運営されているから、見に行ってみたら?」

「そうね。この夏休みは無理だから、魔闘会が終わったら一緒に泊まりに行こうよ。」

「一緒に?別にいいけど。」

「約束よ。」


 電車が発車し、外縁都市を抜けると見渡す限り水田や畑が広がっている。


「水田が綺麗。みんなでワイワイ旅行するのも楽しかったけど、こうやって2人でのんびり旅行するのもいいね。」

「僕もこの後に特訓が待っていなければそういう気分になると思うけど、嵐の前の静けさ、って感じで逆に落ち着かない。」

「樹君は先のことを考えすぎだと思うよ。今を楽しまなきゃ、勿体ないじゃない。」

「そうなんだけど、なかなか変えられないんだ。そんなふうに考えられる美姫さんが羨ましい。」

「私は樹君に命を救って貰った時に、折角永らえた命なんだから全力で残りの人生を楽しもう、って決めたの。樹君も楽しんでもらいたいから、覚悟しておいてね。」

「ありがとう。でも、お手柔らかに。」


 電車に揺られていると、見慣れた風景が近づいてきた。


「次の駅で降りるから。」

「分かった。この後はバスよね。」

「肯定。駅で降りたら、バスに5分くらい乗ったあと歩いてすぐ。」

「どんな風景が広がっているのか楽しみ。」

「主要駅の周辺だけが栄えている昔で言うところの普通の地方都市、ていう感じの風景で、面白いところなんて何もないって。」

「樹君にとってはそうかもしれないけれど、観光地化されていない東京シールドの外にある街を見るのは初めてだし、樹君の生まれ育った街だから。」

「東京シールドの内側にずっと住んでるとそう感じるのかもしれないな。でも、高尾山の近くに住んでた時も地上だったんだんじゃない?その時と変わらないと思うけど。」

「あの時はほとんど穴倉の中、っていう感じで外になんかめったに出なかったから、地下で生活とほとんど変わらなかったの。必要なものは父が買ってきてくれたし。」


「穴倉の中?普通の家じゃなくて?」

「そうなの。昔、父が趣味でつくった隠れ家を拡張したらしいんだけど、行ってみればどんなのか分かるよ。」

「隠れ家とか憧れる。」

「そんなにいいものでもないよ。それこそ、樹君が国分寺を地方都市で面白いところでもない、と言うのと同じよ。」

「成程。一理ある。」


 駅を出ると、そこは見慣れた光景だった。


「へぇ、樹君が暮らしていた街ってこんなんなんだ。」

「『国分寺よ、僕は帰ってきた』って感じかな。」

「何それ?変なの。」

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