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竜の女王  作者: M.D
2170年夏
96/688

03

 今日の魔法の実技は全体訓練だ。


「もうすぐ夏休みだと思って浮かれている者もいるかもしれないが、夏休みが終わるとすぐに魔闘会だ。そこで、今日は魔闘会に備えて魔力で身体を強化する技術、身体強化についての訓練を行う。」

「先生、質問しても良いでしょうか?」

「なんだい?」

「どうして身体強化の授業はこの時期なのでしょうか?もっと早く教えてくれてもよかったのではないかと思うのですが。」


「いい質問だ。身体強化の授業がこの時期に行われる理由は3つある。1つ目は精神の成熟だ。中学時代を思い出してみると、魔法を習い始めた中学1年生の頃は魔力の暴走を何度も経験しているのではないか。そして、中学3年生になると魔力が暴走することもなくなったと思う。

 それは君達の精神が成熟してきたからなんだ。精神が未成熟だと、自分の感情を抑えられずに爆発させてしまい、それが魔力の暴走につながる。身体強化は魔力で身体を強化する技術だから、魔力が暴走してしまった場合、大怪我をしてしまい、最悪死亡してしまう可能性もある。だから、精神の成熟を待つ必要があったんだ。」

「樹は今でも魔法を暴走させているけどな。」

「精神が未成熟なのか。おこちゃまだな。」

「そんなことを言ってはいけない。樹君は魔法について学び始めたばかりだから、魔力を暴走させるのは精神が未成熟なわけではなく、まだ制御が不慣れなだけなのだから。」


「2つ目は身体の成熟だ。身体強化を行う際には身体に大きな負荷がかかる。その負荷に耐えられるような体になるまで待つ必要があったんだ。また、中には中学生でも身体強化の負荷に耐えられるも者もいるが、身体強化には体の成長を止めてしまうという副作用があるため、早くに身体強化を習得してしまうと、身体が未成熟のまま大人になってしまう。

 未成熟な身体は、成熟した身体と比べて脆弱な部分が残っているから、魔力量が増えてより強い身体強化を行った際に、その負荷に耐えられなくなってしまうかもしれない。だから、身体の成熟も待つ必要がある。急がば回れ、ということだよ。」

「身体が未成熟のまま、ということは、若いままでいられる、ということですか?」

「そうことではない。身体が未成熟のままでも老化はするから、若いままでいられるわけではいんだ。」

「そうなんですか。残念。。。」


「3つ目は経験だ。前の2つの理由から考えると、もう少し後になってから身体強化を習得したほうが良いのだが、魔闘会で得られる経験のことを考えると、今の時期に習得しておく方がいい。身体強化のことを知らずに叩きのめされるのと、身体強化のことを知ったうえて叩きのめされるのでは、後者の方が多くのことを学ぶことができる。」

「叩きのめされることが前提なんですね。。。」

「上級生は君たちが考えているよりもはるかに強い。その強さの理由の1つを知っているのと知らないのとでは得られる経験値に雲泥の差がある。」

「分かりました。」


「長々と話をしてしまったが、実際に身体強化をやってみようか。魔力循環は主神経系に魔力を流して魔力を循環させるイメージで行ったと思うが、身体強化は末端神経まで魔力を流して体の隅々まで魔力を充満させることをイメージする。まずは体をリラックスさせて、体の隅々まで魔力を行き渡らせることをイメージしてみると良いだろう。」

「はい。」


 自分の魔力の流れを感じ取り、その流れを体中に分岐させるようにしようとしてみた。


(樹君どう?何か感じられた?)

(否定。何をどうしていいのか全く分からない。美姫さんは?)

(私も。)

(美姫さんもか。どうやって体の隅々まで魔力を行き渡らせるんだろう?)

(そうよね。身体強化ができた時の感覚が分かれば出来るような気もするんだけれど、それが分からないのよね。)


「先生、何も感じられないんですが、どうなったら身体強化できたと分かるんでしょうか?」

「そうだな、、、これは人それぞれなんだが、私も含めて多くの人は、自分の体が自分のものではないように感じるようだ。」

「??」

「単純に言うと、体が軽くなる、という感じかな。」

「分かったような、分からないような、、、」

「そこが身体強化の難しいところなんだ。魔力の鍛錬では他の人から魔力を流してもらうことで、魔力とはどのようなものかを感じることができるから教える方も楽なのだけれど、魔力を使って他の人の身体を強化することはできないから、私も身体強化については感覚でしか伝えられないのが歯がゆいところだな。」

「自分で何とかするしかない、ということですか?」

「そういうことになる。心配しなくても、最初は誰でも戸惑って何をしていいか分からないけれど、その内突然感覚を掴めるようになる時が来るから、今は体の隅々まで魔力を行き渡らせるよう、微弱な魔力を感じることに集中してみよう。」

「「はい。」」


(微弱な魔力を感じるのか。僕は魔力そのものがまだ少ないから難しそうだ。美姫さんは、どう?)

(もう少しで何か掴めそうな感じがするんだけど、うまくいかない。)

(あともう少しなんだったら、純一先生に身体強化ができたときの感覚を詳しく教えてもらったら、感覚がつかめるかもしれないんじゃない?)

(そうね、聞いてみる。)


「先生、もう少し身体強化ができたときの感覚を詳しく教えてもらえないでしょうか?」

「そうだな、、、自分の体が自分のものではないように感じられる、と言ったけれど、自分の体が自分ではない誰かに動かされているように感じられる、とも言える。操り人形のように自分で自分の体を操っている、という感じかな。」

「ありがとうございます!ヒントを見つけられた気がします。」

「そうかい。それは良かった。」


 それからすぐに美姫さんは身体強化の感覚を掴み、目で追うのが難しいほどの速度で動くことができるようになっていた。


「はえー!」

「動きが見えない時があったわ。」

「さすがは美姫さん、すげー。」


 生徒たちは口々に美姫さんを称賛し、


「ねぇ、どんな感じなの?」

「どうやったら身体強化が出来るようになる?」

「私にも教えて。」


 美姫さんに助言を求める。


「先生が言っていた、自分の体が自分ではない誰かに動かされているように感じる、というのが私にはしっくりきたみたい。自分で自分の体を操るように魔力を使うとうまくいったの。」

「そうなんだ。」

「そんな感じで私もやってみよう。」


 しかし、努力むなしく、授業中に身体強化が出来るようになったのは美姫さんだけだった。

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