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竜の女王  作者: M.D
2170年夏
95/688

02

「『各魔法系統には得手、不得手があることから、お互いを補完しながら連携して悪魔と対峙するための訓練をすることが重要である。そのため、日頃の訓練成果を披露する場として魔法闘技会が2044年に提案され、準備期間を経た後、2050年にヒューストンで初開催された。』」

「『魔法闘技会は1辺50mの6角形の闘技場で4人1班、3つの班が魔法技術を競い合う。闘技は3人で行うため、各班から闘技者を3人選出し、残りの1人は交代要員として闘技場の外で待機する。』」

「『闘技者3人の選出を終えた各班は、6角形の1、3、5番目の頂点のいずれかから入場し、開始の合図とともに魔法を使って他の班と交戦する。会場は”楯系”魔法の専用防御装置によって守られているため、魔法が会場の外に漏れることはない。』」

「『勝利条件は最後まで闘技場に残っていること。魔法を受けて気絶してしまった者、怪我をして動けなくなった者、降参の意思を示した者は闘技場の外で待機している国防軍から派遣された魔法使いが回収する。また、魔力が少なくなったり怪我をして競技に参加できなくなった場合、自力で闘技場の外にでることができれば交代要員と交代できる。』」

「『ただし、交代時以外に闘技場外に出た場合は闘技場に戻ることはできない。闘技場外の闘技者を攻撃することは禁止されている。また、魔法を暴走させた班員のいる班は失格となり、その判断は審判団が協議して決めることとする。』」


 今日は純一先生に急用ができて補講がなくなっため、情報端末にダウンロードした魔闘会についての資料を使って美姫さんと自習室で勉強中だ。


「魔闘会って個人戦はないんだ。」

「そうよ。『お互いを補完しながら連携して悪魔と対峙するための訓練をすることが重要である』って書いてあるし。」

「個人技能を伸ばしても人間では悪魔には到底及ばないから、集団技能を伸ばした方が有利なのは当然と言えば当然か。」

「”単独で”悪魔と対峙可能な魔法使いなんて、世界中探してもほとんどいないんだから。」

「同意。」


「魔闘会は集団戦といっても対抗戦じゃなくて3班同時対戦だから、複雑な戦闘になることは間違いないよ。」

「それに、4人1班だから闘技者を誰にするかで戦略が変わってくるのか。」

「私たちは2人だから、選択肢がないのは不利ね。相手にこちら側は誰が出てくるか分かってしまうし。」

「僕が一番最初に狙われるだろうな。」

「大丈夫、って言ってあげられないことがもどかしいよ。」

「僕が強くなればいいんだけど、一朝一夕で強くもなれないからなぁ。」

「危ないと思ったら、即座に闘技場から出てね。そうすれば攻撃されないから。」

「了解。」


 資料を順に読み進める。


「この後は、基本的な隊形とか戦術の簡単な説明ね。」

「これは文章を見るよりも映像を見たほうが分かりやすいから、映像を見たあとで分からないところを調べるときに見るとして、後回しにしない?」

「それじゃ、他に先に見ておくべき項目はありそう?」

「うーん、、、東京での魔闘会は予選で、本大会は魔法理事国のどこかの都市で開催されるんだったはず。今年はどこなんだろう?」


 美姫さんが情報端末で検索する。


「あった。『2100年にボンベイ、ロサリオ、シンガポールの3都市が魔法理事国への参加を許された後、各都市で魔法闘技会の予選が行われ、本大会は各都市の持ち回りとされるようになった。本大会は、ヒューストン、ロサリオ、パース、東京、シンガポール、ボンベイ、リューデリッツ、ローマ、ロンドンの順で行われる。』だって。」

「『昨年度はローマであった』って書いてあるから、今年はロンドン、来年はヒューストンで開催されるのか。」

「どちらも東京からは遠いね。」


「ヒューストンと言えば、百合子さんは去年はヒューストン大学の入試に落ちたと言っていたけれど、今年は受かりそうな気がする。」

「そうよね、、、って、ちょっと待って。来年ヒューストンで魔闘会の本大会が行われるということは、東京での魔闘会予選で優勝すればヒューストンに行けるということじゃない?」

「そうだけど、何か思いついた?」

「純一先生が『ヒューストン大学の資料庫になら使用されなかった試作品が残っているかもしれない』って言っていたのを思い出したのよ。」

「そうか!」


 美姫さんが思いついたことが分かった。


「百合子さんが『ロジャー研究室に所属していると言えば、一介の学生では見ることができないような歴史資料や研究物を見せてくれたりすることがある』って言ってたじゃない。ということは、百合子さんがヒューストン大学に合格できれば、百合子さんに頼んで私たちもヒューストン大学の資料庫に入れてもらえばいいのよ。」

「そして、その資料庫には美姫さんのお父さんが研究していた魔力増幅具が残っているかもしれない。」

「その魔法具を使えばエレナ様が天界に帰るために必要な精神エネルギーを作り出すことができるね。」

「肯定。そこに気が付くなんて、さすがは美姫さんだ。」

「百合子さんがヒューストン大学の入試を受ける話を樹君が思い出してくれたから、気付けたの。私ひとりじゃ無理だったよ。」


「でも、そのためには来年の魔闘会予選で優勝しないといけないのか。今の僕の実力では、全然ダメだ。」

「そうね。今年は初めてだから魔闘会について分からないことも多いけど、できるだけ勝ち進んで経験を積んでおきたいね。来年になれば私達も成長しているだろうし、人数を揃えられれば何とかなるように思うの。」

「あとは僕がどれだけ美姫さんの足を引っ張らないようにするか、か。」


(そうじゃ。樹が足を引っ張っておる今のままではどうにもならんのじゃ!)

(エレナ様、そんなことは、、、)

(美姫は樹に甘すぎるのじゃ。現実を正確に見つめねばならんのう。)

(でも―――)


(力が欲しいか?)

(え?)

(力が欲しいか、と聞いておるのじゃ。)

(肯定。)

(ならばくれてやろう。夏休みにワレとの特訓によって。)


(夏休みに特訓って、、、エレナ様が何らかの力で僕を強くしてくれるんじゃないんですか?)

(何を言っておるのじゃ。樹を即席で強くする方法などないのじゃ。)

(固有設定値を変更するとか、あるじゃないですか。美姫さんくらいまで数値を上げて下さい。)

(美姫と同等の数値まで上げるとなると、固有設定値を大幅に変更せねばならんのじゃが、そうすると危険を伴うから、最悪、樹は廃人になってしまうからのう。)

(そんな危険なことをこの前僕にしたんですか!)

(『大幅に変更すると』と言ったじゃろう。あの時はちびっとしかいじっておらんから、危険などほとんどなかったのじゃ。)

(じゃぁ、ちびっとだけでも。)


(樹君、ずるはダメよ。どうしても、って言うときはそうする他ないかもしれないけれど、今はエレナ様の特訓を受けましょう。)

(了解。)

(夏休みが楽しみじゃのう。)

(僕は憂鬱です、、、)

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