03
「はぁ、、、」
「桐谷、どうしたんだ?」
食後のコーヒーを飲んで雑談をしているときに、諒太さんが憂鬱そうにため息をはいた。
「百合子さんと源蔵さんがいなくなってしまうのかと思うと、俺は生徒会長としてやっていけるのか、突然不安になりはじめて。」
「六条さんのことか?高科が主に対応していたから俺はあまり関わっていなかったが、彼女ももう少しおとなしくしてくれれば良いのに。」
「私も卒業するまでは協力するわよ。」
「ありがとうございます。麗華さんの件もありますけど、来年は華恋も高校に入学してくるから、大変だな、と思いまして。」
「華恋というのは桐谷の許嫁なんだろ。桐生家本家筋のご令嬢との仲はうまくいっていないのか?」
「華恋は許嫁じゃなくて、俺が婿候補の1人というだけです。それに、華恋とは昔からそんなに仲が良いわけでもないですよ。結婚については俺には拒否権なんてないですし、華恋は次期当主として有望視されていますから、華恋と結婚したいと思っている他に候補者はたくさんいます。」
「そうか。桐谷も大変だな。」
「麗華さんも華恋もどちらも誇りが高くて相性が悪いですからね。中学の時もやりあっていて、俺は2人の仲裁役をさせられていたのですが、高校生になって力を増していることを考えると、はたして俺に2人を止められるかどうか、、、」
「華恋さんが高校に入ってくる頃には私はいないけれど、今年は美姫さんもいるから大丈夫じゃないかしら?」
「そんなことないです。」
(華恋ちゃんってどんな子だったかなぁ?小学生の頃に会っているはずなんだど、、、)
(まだあと半年先のことだし、そんなに気にすることないと思う。どうせ来年の入学式が終わったら会えるんだし。)
(そうね。)
「いや、俺も美姫さんが生徒会にいてくれると心強い。」
「なに美姫さんのことを見つめているのよ!美姫さんには樹君がいるっていうのに。」
「何故涼宮が怒るんだ?もしかして妬いているのか?」
「何をいうんですか島崎さん。どうしてこんなやつのことを好きにならないといけないですか!」
「そうやってむきになるところが怪しい。」
「一般人が桐生家外家筋の俺を好きになるなんて、困るなぁ。」
「むっきーー!何が『困るなぁ』よ。」
「そう言えば、麗華さんは停学処分があけてからもほとんど学校に来ていないそうだけど、諒太は何か聞いているの?」
「いえ、特に何も。それに、好美もほとんど登校していませんし、麗華さんがいないと平和で穏やかな日々が過ごせますよ。」
「好美さんもだなんて、絶対何か企んでいるわね。」
「俺もそう思います。もうすぐ魔闘会だから、そこで美姫さんに対して何かやらかすつもりかもしれませんね。」
「そうね。私も注意しておくことにするわ。」
(麗華さんは停学処分になったのに、まだ懲りてないのか。)
(本当に困った人だね。)
「魔闘会って、魔法闘技会のことですか?」
「そうよ。」
「僕は東大附属高校に入学するまで知りませんでした。」
「樹が知らなかったのは、魔闘会のことを外部には積極的には公開していないからかもしれないわね。決勝戦ともなると身体強化ができる生徒も多くなって、普通の人は身体強化された魔法使いの動きを目で追うことなんてできないから。」
「俺も含めて普通科の生徒は魔闘会の決勝戦では何をしているのか見えんからな。1回戦だったら、かろうじて動きが見えて楽しめるんだが。」
「そうですよね。身体強化なんて反則ですよ。」
「紫には分からないかもしれないが、身体強化をしないと悪魔と対峙なんてできないから、魔法使いには必須の技能なんだよ。」
「そうなんだろうけど、同じ高校の生徒なのに別世界の住人のように感じるのよ。」
「樹と美姫さんは魔闘会に出場する班は決まったの?」
「1年生は僕と美姫さんを除くとちょうど班が4つできる人数なので、僕も美姫さんもどの班にも入れてもらえなくて、2人で出場することになりました。美姫さんだけならどの班にも入れてもらえそうなんですが。」
「やはり、そうなったのね。」
「普通は中学から班の人員を入れ替えながらお互いの相性とか確かめて班を作り上げているから、余程のことがない限り、俺も高校からの編入生を自分の班に迎え入れることはしたくないと思いますよ。」
「それに、私が入ることでその班から誰かがはじき出されるのは嫌ですし、そもそも樹君と一緒じゃないと嫌ですから。」
「樹君は美姫さんに愛されているなぁ。」
「もう、紫さん、そんなこと言わないで下さい。恥ずかしいです。」
「でも、2人で出場というのは厳しいわね。」
「そうですね。2人だと交代要員も出せいないですから。」
「それと、魔闘会はお互いを補完しながら、班全員が協動することが重要なのよ。そうすれば1+1+1を3ではなくそれ以上にすることも可能なのだし。」
「百合子さんはいつも砲台として1人で局面を打開しているように見えますが。」
「そうでもないわよ。私も1度で仕留められなかったときには、魔導砲を撃つためには溜が必要だから連射できない、という”大砲系”の弱点を突かれてしまうから、仲間の協力は必要よ。去年はまさにそれで負けてしまったしね。」
「そうでした。2枚の魔法盾で百合子さんの魔導砲を受け切った3年生1班の”銃剣系”の生徒が百合子さんの班を急襲して、それを防ぎきれずにやられてしまったんですよね。」
「さすがに”楯系”魔法使いを2人も出すなんて、3年生のくせにやりすぎよ。」
「俺もそう思いますが、絶対に2年生の百合子さんの班には負けられない、という3年生の意地を感じました。」
「それに、身体強化をした鈴音さんの動きは速かったわ。陽菜も抑え込まれていたし、一瞬で3人とも気絶させられたんだから。今年は全員去年よりも成長しているし、諒太たち2年生には負ける気がしないわね。」
「去年は百合子さんが実力を示したので、今年は俺が百合子さんの魔導砲を受け切って名を上げることにします。」
「それなら、諒太と当たった時には諒太の方には少し多めに魔力を送り込んでおくことにするから、覚悟しておくことね。」
「しまった。つい、いらんことを言ってしまった、、、」
「ご愁傷様です。(・人・)」




