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「それと、魔法具って何ですか?」
「魔法具は魔法の腕輪と補助具が一体になったものよ。」
「そんなものがあるのか。」
「美姫さんの言うとおり、魔法具は魔法の腕輪の機能が組み込まれた補助具のことで、中級魔法使い以上でないと実戦では扱えない。それらの種類や機能については、また今後の授業でも説明するけれど、美姫さんは龍野教授の娘さんでもあるし、龍野教授が研究していた魔法具についてだけだったら特別に話をしてもよいかもしれないな。」
「お願いします。」
「龍野教授が若かったころにヒューストン大学で研究を行っていたのは知っているかい?」
「はい。でも、何の研究を行っていたかまでは知りません。」
「龍野教授が研究していたのは魔導力の代わりに魔力を放出する魔法具の研究だね。」
「魔力の増幅ですか?」
「そう。魔法使いは魔力を消費して魔導力を放出するから、魔力が無くなると魔法が発動できなくなる。ならば魔力を補充すれば良い、と考えるのが普通だろう。そこで、自分が持っている魔力を増幅して渡すことができれば魔力を補充すことができるのではないか、という発想をもとに始められた研究なんだよ。」
「ゲームにでてくるMPを回復させるアイテムみたいですね。」
「そのとおりなんだが、これを実現するのはなかなか難しい。ずっと昔から研究されていて、今でも未完の技術なんだよ。」
「今でも未完ということは、父も失敗したという事でしょうか?」
「私は龍野教授が研究を続けていたならば完成させられた、と考えている。」
「どういうことですか?」
「龍野教授は魔法物理学の魔力結合理論を応用することで、進展のほとんどなかった魔力増幅の研究を一気に進め、”魔力増幅具”という試作品を作るというところまでたどり着いた。とはいっても、一度使ってしまうと壊れてしまう代物だったんだよ。」
「よく分かりませんが、すごいことなんだ、ということは分かりました。」
「しかし、ちょうど第2 次悪魔大戦が始まって、龍野教授が反対したにも関わらず地球連邦軍の上層部が実戦で魔力増幅具の検証を強行したんだ。結果は最悪で、魔力を補充するどころか、増幅した魔力を受けた魔法使いたちは発狂して死亡してしまったんだよ。」
「最悪の結果ですね。」
「どうして魔法使いたちは発狂してしまったんでしょうか?」
「簡単に言うと、10人分の魔力に精神が耐えきれなかったんだろう。」
「人間って、10人分の魔力を受け入れられないんですね。」
「誰もそんなことを検証したことがなかったから分からなかったんだ。その時の研究資料は上級魔法使い以上じゃないと見れないんだけど、特別許可をもらうことのできる機会があったから調べてみたところ、どうも龍野教授は魔力増幅具における魔力の増幅率を下げるのに苦労していたみたいだ。」
「増幅率を上げるのは難しいけど下げるのは簡単そうなんですが、そうじゃないんですね。」
「魔力増幅に関してはそうみたいだ。60dB、つまり千倍から下げるのが難しい、と書かれていたと記憶している。」
「千倍って大きいですね。」
「そのとおりなんだけど、地球連邦軍の上層部は千倍の増幅率でも百人に向けて放てば、一人当たり十倍の魔力量を受けるだけだから、その程度だったら大丈夫だろうと、考えていたみたいなんだ。」
「安直ですね。」
「それに、魔法使いたちが発狂して死亡したことが露見して自分たちが批判されるのを防ぐために、悪魔に襲われて死亡したように偽装して隠蔽してしまったから、この事実は闇に葬られて一般的には知られていない。」
「ひどい。」
「魔法使いの歴史の中では事実が闇に葬られることはよくあることだけれど、こういうことはできるだけ起こってほしくない。」
「そうですね。」
「第2 次悪魔大戦が終わった後、龍野教授はヒューストン大学に戻らず、魔力増幅具の研究をやめてしまったんだ。」
「魔法使いたちが死亡したことに責任を感じんでしょうか?」
「それもあるかもしれないが、龍野教授がヒューストン大学に戻らなかった理由は麻紀さんの体調が悪化したから、と言われている。」
「母のため、ですか?」
「伝え聞いた話だと、そうらしい。龍野教授は麻紀さんのことを大切に思っていたようだから。」
「父は母のことを愛していたと思います。」
「東京に帰って来た龍野教授は発想を転換して、魔力を増幅して補充するのではなく、魔力を貯めておいて必要になったら取り出す、という研究に切り替えたんだ。魔力を貯蔵する研究もずっと昔からされていて、今でも未完の技術なんだよ。」
「その研究については、たまに父から聞かされていました。ようやく試作品を完成させる目途が立った、と言っていました。」
「私は詳しくは知らなかったけど、長い間成果がでていなかったんだが、試作品の完成までたどり着いていたのか。さすがは龍野教授だな。」
「おっと、もうこんな時間か。今日はここまでにしよう。寄り道ばかりしてしまって時間がなくなってしまったから、特級魔法使いについての説明は次回にしよう。」
「はい。分かりました。」
「ありがとうございました。」




