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「で、誰が噂の出所だったんだ?」
「南部に近い生徒だったわ。優しく問いただしたら、すぐに噂を流したことを認めてくれたわよ。」
「問いただした、という時点で優しくないよな。」
「私もそう思う。」
「噂の鎮火もお願いしたら、快く引き受けてくれたわ。それに、償いとして紫に協力することも約束してくれたわよ。」
「絶対に脅したよね。」
「そうだな。」
「そこの2人。当事者であるあなた達のために私が骨をおったというのに、何て言い草なの。」
「すみません。」
「百合子さんには感謝しています。」
「悪い噂を流して紫さんを貶めてまで生徒会に入りたい、って理由は何なのでしょうか?」
「魔法科の生徒が生徒会に人気がある理由を知らなくて当然かもしれないな。」
「源蔵の言うとおりね。美姫さん、生徒会役員になった生徒は東大附属高校の生徒会OB会に入れるの。生徒会OB会の絆は強くて、政府職員として出世したいのであれば生徒会OB会の人脈は重要視されるから、皆これ目当てに生徒会に入りたがるのよ。」
「魔法科から生徒会役員になる生徒はあらかじめ決まっているし、そもそも政府職員になるような生徒はいないから、生徒会OB会に関心がないのはしょうがない。」
「そうだったんですね。」
「いい機会だから生徒会選挙の説明をしてしまいましょうか。」
「そのうち修礼で説明されると思うが、龍野さんも森林君もいいかな?」
「「はい。」」
「まず、生徒会の会長と副会長は選挙で選ばれるが、書記と会計は会長が任命することになっているんだ。」
「書記と会計は選挙で選ばれないんですね。」
「そのとおりよ。伝統的に書記は次期会長候補が務めることになっていて、2年生には麗華さんがいるけれど任せられない、という理由で今期は諒太にやってもらっているの。」
「俺はやりたくないんですけど、魔法使い御三家外家筋の使命だと思ってやるしかないですね。麗華さんさえちゃんとしてくれていれば、俺がやる必要もないのに。」
「2年生には一条好美さんという六条家外家筋の生徒もいるけれど、麗華さんの傀儡になることが分かり切っているから満場一致で却下だったわ。」
「それはそうですよね。」
「書記の人選はほぼ決まっているから、会長はそれを追認するだけに近いわ。だから会計の選任が選挙で当選した会長の初仕事ね。」
「会計は人気があって、普通科の大半の生徒がやりたいと思っているんじゃないかしら。私もその1人だったけど。」
「どうして会計は人気があるんですか?」
「さっきも言ったけど、生徒会役員になった生徒は東大附属高校の生徒会OB会に入れるの。会計だけ務めても生徒会OB会に入れるし、会長や副会長ほど責任や仕事がないからね。」
「なるほど。」
「私も会計だけやって、副会長には立候補するつもりはなかったんだけど、百合子さんに強引に立候補させられてしまったの。」
「南部よりも紫のほうが100万倍ましだからよ。」
「せめて言葉の上だけでも、適任と思ったから、とか言ってくれませんか。」
「いいじゃない、本当のことなんだから。」
「どうやって会計になる人を決めるんですか?」
「まずは先生達から推薦を受けた生徒や1年生を観察して適任と思える生徒を候補として選ぶの。
修学旅行に生徒会の書記が参加するのも、次期会長として、会計候補者たちの学校外での行動を観察するため、という目的もあるわ。」
「それで、諒太さんと紫さんも修学旅行に来てたんですか。」
「そういうことよ。私は情報網があるから必要ないけど、普通は自然と候補者に話しかけて人となりを探ったりするの。その結果を持って選挙が終わった後に候補者と面談して、会長と副会長が話し合って会計を決めるのよ。」
「ちなみに、私を選んだ理由って何だったんですか?」
「女子で、諒太にもちゃんと意見を言えそうだったから。他の女子は諒太の意見に賛成しか言わなさそうだったし。」
「え!?そんな理由だったんですか?私の実力を評価したわけじゃなくて?」
「生徒会役員になる資質がないと選んだりはしないから、そこは誇ってもいいと思うわよ。それに、会計に男子を選んだら、女子は私だけになるじゃない。そんなむさくるしい生徒会は嫌よ。」
「百合子さんらしいと言えばらしいですけど。」
「生徒会選挙については、ざっとこんなものね。紫の噂についてはもう問題ないから、臨時の生徒会役員会議は必要ないと思うけど、どうかしら?」
「高科が対処してくれたんだったら、大丈夫なんだろう。」
「それじゃ、あなた達はもう――――」
「折角生徒会室に来たんだ。俺たちもお茶を用意して、土産でも食べながら龍野さんと森林君の話でも聞くとしようか。」
「そうですね。わたしお茶の用意してきます。」
「はぁ?あなた達、何を言って―――」
「百合子さんだけよりも、俺たちもいたほうがいいアドバイスができると思いますよ。俺たちの方が年も近いですし。」
3人は即座に行動し、百合子さんに有無を言わせなかったのは、経験の賜物であるような気がした。




